第千百三十二話
「レルクスさん!お久しぶりです!」
「ああ、久しぶり」
レルクスの家に突撃した椿。
ちなみに、門番は『今日は椿ちゃんが来るから通してあげてね』と言われていたので、椿と軽く話すと入れました(ほぼ素通り)。
「にゃっふー!」
訳:なんだかお菓子が欲しいですううう!
「ああ……ユキ、二時間前にお菓子を買って来ただろう。持ってきてくれ」
「はい!」
メイド服を着たレルクスの『神兵長』であるユキが元気よく返事をすると、指をパチンと鳴らして、ビスケットが盛り付けられた大皿が出現した。
「おー!美味しそうですううう~~~♪」
テーブルに置かれたお菓子をむしゃむしゃ食べ始める椿。
「……レルクス様。本当に何を言っているかわかるんですね」
「全知神だからね」
「いや、レルクス様って、『過去から未来まで何が起こっているのかわかる』だけで、『本人にもうまく定まっていない内心』までわかるのかなって思ってたので……」
椿は基本的に素直な性格なので、言いたいことは全部言葉に出る。
そして、基本的には相手にもわかる言葉で話す。
のだが、たまに変な言葉(本人曰く『沙耶語』)は分からない。『ぷっぷっぱー!』では全然わからない!
「内心でいろいろあるからこそ、未来も分かるということだ」
「椿ちゃんが相手だとどこか納得できない自分がいますけど、まあ、わかりました」
「それでいい」
レルクスにだって感情はある。
一応、彼だって、ユキが椿について理解を放棄する気持ちは知っているし同意する。
深い理解など不要なのだ。
「それで、椿ちゃんはどんな用でここに?」
ユキは椿に聞いた。
レルクスはこれから椿がどんなことを聞いてくるのか、それに対してどうこたえるのか、最終的にどのような答えを持って帰るのかを知っているが、当然、ユキにはわからない。
「むっふふー!ラターグさんから、『多分稽古をつけてくれるよ』という話を聞いてきたのです!」
「え……レルクス様から!?」
ユキは愕然とする。
そしてレルクスを見た。
レルクスは表情を変えずに頷く。
「……ここで君に稽古をつけない『ルート』もあるが、つけた方が都合が良いことは確かだ」
「それだけ、椿ちゃんが強大な敵と戦うということですか?」
「それを秀星と風香が許すわけないだろう。少し別……いや、『ズレ』た話だ」
「……」
ユキは一瞬、レルクスの表現がズレたことに対して思うところがあった。
……が、特に、突っ込むこともなかったが。
「お願いします!むふふ~!」
だって椿ちゃんが何も気にしてないし。




