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第千百三十一話

「むむむ……あんまりはぐらかさないでほしいです!」


 マクロードといろいろ話しているが、要領を得ない椿。


 まあ、椿が要領を得るための説明となると、相当簡単に……というか、ぶっちゃけストレートに言う必要があるので、腹に何かを抱えている様子のマクロードにはキツイかもしれないが。


(……めんどくさいな!この子!さっすが世界最強の男の長女だ。あー怠い!)


 やっぱりこいつラターグ臭いな。


 ……で、内心でこんなことを叫んでいることからわかると思うが、マクロード。最初から椿が秀星の娘であることは知っている。


 その上で、椿には何もいらない雰囲気を装っていた。


「ははは、はぐらかしているつもりはないんだけどねぇ……」


 乾いた笑みになるマクロード。


「ぷっぷー!んにゃあああああ!」

(……?)


 誰か日本語に翻訳してくれ。という感情が浮かび上がってくるマクロード。


「ふにゃっふううう!ぷんぷんぱー!」

「いやわからんよ……」

「……すみません、沙耶語で話していました」

(いや、沙耶ちゃんって基本『うー!』しか言ってないけど、あれって一般的にはそうなるの?……ていうか、そのマ行とパ行とニャ行で緻密にくみ上げられたそのアホそうな言語センスの基礎って沙耶が作ったのかい?)


 どのように結論を出せばいいのかわからない疑問ばかり浮かぶマクロード。


 ……一応、自分の『因子』の発見能力を持つ沙耶のことは情報として持っているようだ。


「とにかく!これからマクロードさんはどうするつもりなんですか?こんな草原のど真ん中でダラダラゴロゴロするなんて、考えられませんよ!ぷー!」

「……いや、君の身近にも、こんな場所でダラダラすることを望む人がいると思うけどね」

「ラターグさんは寝てばかりでグータラでダラダラしててロクデナシで粗大ゴミってよく言われてますけど、ちゃんと働いてるんですからね!」

「君は『無邪気』という言葉が持つ残酷さを知った方が良いと思うよ?」


 あまりにも的確にボロカスに叫ぶ椿にマクロードも困惑するしかない。


「……でっ!これからどうするんですか!」

(逃げられねぇ……)


 なんでそんなに気になるのだろう。


「……まあ、部下が頑張ってるけど、本当に余計なことになったら私もしっかり動くとするよ。それに……封印自体は、この草原からでも、時間をかければ解けるからね」

「あ、そうなんですね」


 外部からの何かが必要となれば、おそらく椿は動くつもりだっただろう。


 というより、その精神性から、椿は束縛が何よりも嫌いなのだ。


 制限されているのが嫌いなのだ。


 もちろん、社会性も高いのでルールは守るが、整合性のない主張などどうでもいいと考えるタイプである。


 そのため、マクロードだってきっと解放された方が良いと思っているのだ。


 ……まあ、マクロードだって、解放された方が良いと考えているのは事実だ。別に、封印状態じゃないと、大草原でダラダラできないわけじゃないし。


「むー……にゃっ!レルクスさんのところに行くのを忘れてました!」

「……」


 マクロードは椿が忘れていること以上に、『この段階になってレルクスが介入してこないこと』の方が気になったが、置いておくことにした。


 全てのありとあらゆる未来の分岐が見えていて、そして何が選択されるのかを知っているレルクスのことなど、誰にもわからない。


「では、またお会いしましょう!」

「え、ああ、うん」


 椿はピューーーッ!とめっちゃ笑顔で去っていった。


「……あれが、朝森椿か……」


 どんな人間とも、根本的に何かが違う……というより、変な存在。


 マクロードの第一印象は、そんなところである。

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