第千百二十九話
「椿ちゃんの行動力ってすごいなぁ……」
「知ってただろ」
「そうだけどね。なんていうんだろう。理由もないのに動き回れる子っているんだなぁって感じ」
「だろうな。で、椿は?」
「レルクスのところに突撃していったよ」
「……え、なんで?」
「特に理由はない様だね」
椿らしい。
椿らしいが、周りが疲れるからね……。
「なんだろう。ここまであちこちに動き回るのが疲れることだと思わなかった」
「まあ、スペックそのものは高いもんな。体力も筋力も俺より高いし」
「神になってから、疲労困憊みたいなことってほとんどなくなったはずなんだけど……椿ちゃんの隣だと、なんていうか、『どうしようもない』ね……」
純粋さと活力だけで世の中わたってるからね。
「で、因子を無力化するための研究だけど、進んでる?」
「ラターグの想定の六割くらいだ」
「こりゃ苦戦するねぇ……計算が甘かったなぁ……」
ソファでごろごろするラターグ。
いやだよ~疲れたよ~という考えが透けて見えるが、まあ、仕方がない。
「はあ、とりあえず研究を進めるか」
「だな」
★
「むふふ~♪こっちがレルクスさんの家だったはずです!」
見当違いの方向に椿はまっすぐ、元気よく進んでいた。
「ん~……むっ!あれってなんですかね?」
裏路地に気になる物を発見!
どうやら直方体のようだ。
上にはボタンが付いていて、下には『押さないで!』と書かれている。
「えいっ!」
ぽちっ!
椿がスイッチを押すと、そのままマシンがグオングオンと動き出した。
「おっ!おおっ!?」
驚いている椿。
ただ、直方体がグオングオン動いた後で、チーンと電子レンジのような音がなると、直方体の後ろに扉が出現した。
「おお、なんだかすごそうです!」
遠慮なく入っていく椿。
扉はどうやら転移装置も兼ねているようで、扉の奥は草原が広がっていた。
「ほー……のどかな場所ですね!」
草原の中心に一軒家がある。
椿はピューーーッ!とめっちゃ笑顔で走っていった。
「むむ?誰かいます!」
長身痩躯の男性がいた。
金髪を短く切りそろえており、盆栽を弄っている。
「……おや?ここに誰かが来るのは珍しい」
「むふふ~!私は朝森椿といいます!あなたは?」
「私かい?私はね……」
椿という少女は、本当に、何をしでかすかわからない。
ただ一つ言えるのは……
彼女は、整合性とか、文脈とか、そういったものを、すべて無視する存在である。
「マクロード・シャングリラと、名乗っているよ」




