第千百二十八話
「一つ忘れていたことがありました!」
「……そうなんだ」
ラターグはとても疲れている。
理由はいろいろあるのだが、一つ上げるならば、『椿の直感が優れすぎているから』だ。
椿はバカであり、脳みそスカスカであり、地雷を踏むこともある。
しかし、急所を抉ることは一切ない。
それを、初対面だろうが何だろうが、全ての人間に対して行うのだ。
もちろん、普通の人間であればそんなことを考える必要はないのだが、椿は元から自分が考えていることが表に出る精神性をしているため、良くも悪くも『微妙なライン』をチクチク刺激し続けることになる。
そういう状態のはずなのだが、椿は細かいことを気にしない性格の癖に、その勘が鋭いことによって、ありとあらゆる『自分の許容範囲を超えること』を全てスルーして関わる。
結構『むっはー!』と言いまくってるが、それをに対して不快感を抱く人間だってもちろんいるだろう、
だが、椿はその手の人間の前で変に叫んだりしないし、そもそも近づくことすらない。
椿が論理的な推測をしているはずがないので。全て勘。
それはいいのだが、勘って他人にはわからないのだ。ちょっと……心臓に悪い。
「屋敷に納豆を忘れたんです!」
「買えばいいじゃん」
「未来のシカラチさんが作ってくれたものなんですよ!むうううっ!」
(シカラチ……椿ちゃんに何を与えてるんだ?)
ラターグの親友にして腐敗神祖。シカラチ。
なんだか悪性が強そうだが、実態はラターグと同じダメ人間である。
で、彼が司る『腐敗』だが、食品に関して言えば、発酵と腐敗は、人間が食べられるかどうかの差でしかない。
神祖くらいになれば色々いじれるので、大豆で遊ぶことなど大したことではないだろう。
「なるほど。シカラチが作った大豆商品って美味しいもんね」
「味噌と納豆をよく持ってきますね」
「朝食感あふれるなぁ」
「未来では毎日食べてますよ!」
むっふーん!と胸を張る椿。
(女の子の胸の大きさには豆が関係してるって聞いたことあるような……いや、椿ちゃんなら何でも発生するか)
思考放棄が加速するラターグ。
彼は寝たいのだ。




