第千百二十七話
「む……なんだか、思ったところとは別のところに来ましたね……」
「工業地帯だね……確かに、あまりここは寄らないなぁ」
大型の工場が並ぶ場所。
ただし、煙突は一本もないもので、どれもこれも、『巨大』
それが、天界の辺境にある工業地帯という場所だった。
「……天界って、全ての神の存在意義を保証するために『なんでもある』って言ってましたけど、創造魔法の使用制限がない天界に、工場って本当にあったんですね」
「ないと思ってたのかい?」
「はい」
「さすがにそれはないよ。だって、普通にここで働く人だっているんだからさ」
「あ、それもそうですね」
「まあ、ここが作られるうえで、珍事があったけどね」
「珍事?」
「うん。このあたりの工場、全て『窓がない』でしょ?」
「そうですね」
「要するに、普通に見える出入口しか、何かを運び入れるものがないんだ」
「ふむふむ」
「ただ……『工業地帯の存在』を必要とする神々が、『とりあえず外観さえできてりゃいいだろ』って馬鹿なことを言い出してね……いきなり、工場の外観だけを並べまくったっていう始まりなんだよ」
「そうなんですか!」
驚く椿。
ただ、すぐに首を傾げた。
「……あれ?でも、そうして作られた工場って、外見的には工場でも、本質は『豆腐』ですよね。それって工場って判定されるんですか?」
「されません」
「……え、ということは……見たところ、とっても頑丈に作られてて、素材も貴重品ですよね、再建築はやってないと思うんですけど……」
「全部、あの小さい出入り口から運び入れたらしいよ。工場の外見だけがやたら大きくて、『工場の要素』で限界まで恩恵を受けるには大型機械をいくつも運び入れる必要があるし、本当に外見だけ作ったから、中身が体育館だからね」
「えっ、ええっ!?」
「いろんな重機を一々解体して中で組み立てて……っていうのを繰り返してやっと完成させたらしい。アイツら失敗しまくってるのにクオリティを求められて、完成には七万年くらいかかったらしい」
神々のレベルのボトルシップだろうか。
「あははははは!」
椿、爆笑。
「ま、神々だってそういう失敗はあるってことさ」
「よくあることなんですか?」
「舐めてるとその分きっちり返ってくる。そうなるように、『神々の法律はできている』んだ。全知神レルクスがいるからっていうのも、多分あるけどね」
理不尽な存在が一人いると、秩序が出来上がる。
ある意味、それのわかりやすい例である。




