第千百二十六話
「むっふー!ちっかちっかプー!」
「……」
ラターグは黎明期から存在する神であり、いろいろな人間を見てきた。
そして、自分自身、確信犯で他人を煽ることだってよくある。
その中でよく思うのは、『人間の行動の表層部分は、全てその本質的なところからきている』というものだ。
要するに、何をわかるのか、大丈夫と思うのか、そして実際にどんな行動をとるのか、といった様々な点において、全てその本質と関係性が絶対にある。ということだ。
ラターグは正直、今すぐにでも家に帰ってベッドでごろごろしながらポテチを食べたいが、マクロード・シャングリラという『大魔王』に関係することを片付けないと、面倒なことになるのが分かるので行動しているのだ。
……理想としては、自分は何も気づかず平和にダラダラして、秀星のような時折現れる『歴史を変える蝶を担う者』が勝手にすべてを解決する方が良い。
しかし、ラターグ自身が優秀な頭脳を持っているがゆえに、そして、マクロードたちのような存在に対して『ストレス』を感じる性格をしているため、対応しないと安眠できないのだ。
まあとにかく、ダラダラしたいと言いながらも結局秀星たちに付き合うのは、ラターグのそういった『本質』がかかわるということである。
ただ……長い人生……いや、神生経験を持っているラターグも、椿の本質は、よくわからない。
これほどブレず、しかし拒むことなく大体のことを吸収し、その上で取捨選択をしっかりしつつも、『何も変わらない少女』というのは、その本質が理解できない。
脳みそスッカスカで頭カラッポで思考回路ポンコツだから。ということで解決できればいいのだが、椿は分かりにくいことに、そういう連中とは違うのだ。
受け入れつつも、影響はされない。
加えて、椿が使う刀。
『未来に残された椿が使用する武器がなくなる』という心配を全くしていないので、どうやらドッペルゲンガー発生装置は、身に着けている装備もフルコピーするようだ。
この刀は性能はとても高く、『魔刀』と呼ぶべきものだが、絶大な使用条件と、求められる素質と、そして使えば生涯的に付随するデメリットまで存在する。
使用条件だけがきつい場合、秀星が持つ『アイテムマスター』などはそれを無視できるが、生涯的に付随するデメリットに関しては無効化できないので、この刀は、秀星であっても使用することはできない。
……まあ、神器の方が強いので関係はないが。
椿はそれらの要素を『精神性』という『本質』でクリアしているが、ラターグから見ても、この刀の使用条件は厳しい。
それらをすべてクリアし、そしてずっと変わらない精神性と、バカと維持する椿。
いったいどういうことなんだろうな。と思う。
「ぷっぷっぱー!ぷっぷっぱー!」
……などという、真面目で無駄なことを考えていないと、ラターグの方が理解できずに疲れるということでもあるのだが。
「む!ラターグさん。どうしたんですか?」
「……世の中の不思議な点について考えていたんだよ」
「そうですか!」
にぱーっ!と笑顔の椿。
……やはり、わからない。




