第千百二十五話
「ラターグさん!あれは何ですか!?」
「ただの時計塔だよ」
「え、そうなんですか!?なんだかものすごく高いですよ!時計部分がめっちゃ見づらいです!」
「ほぼ飾みたいなものだからね。ただ、時計神が作ったものだから、『絶対に狂わないようにできてる』よ」
「おおっ!絶対ですか!?」
「僕が知る限りは絶対だね。あと、アナログ時計のすぐ上に、日付が書かれてて、こっちも絶対に狂わない。だから、いろいろな『重要な契約』は、この時計の時間を軸にするというものになるんだ」
「ほー!」
天界を散策する椿と、それについていって解説するラターグ。
ラターグは『実験の休憩』ということで、一人でピューーーッ!といなくなってしまう椿についていくことにしたのだ。
ちなみに、風香は椿との接触ではなく、フェルノとの稽古を優先している。
理由としては、椿と接することは地球に戻ればいくらでもできるが、『最高神を相手とする稽古』はなかなかできるものではないからだ。
秀星の自宅では、時折剣術神祖ミーシェが天窓学園から帰ってくるが、だからといって、彼女は風香に深い興味があるわけではないので、基本放置される。
そのため、『しっかりとした稽古』はフェルノを相手にしたものでどうにかするしかないのである。
で、椿を外で一人にするのもなぁ……と思っていた矢先、ラターグの屋敷で働いている使用人から伝令が来て、『椿を嵌めようとする者が現れて、それを全知神レルクスが直々に止めた』ということで、『なんかいろいろヤバいでっせ!』という空気になった後、ラターグが面倒を見ることになったのだ。
全ての存在のある意味で制御しているといえるレルクスが直々に出てくるとは思わなかっただろう。
その話が広まっているため、今は椿にちょっかいを出そうとする者はいない。
結局、椿に接しようという者すらいなくなったので、このままだと椿が泣き叫ぶことになる。
というわけで、ラターグが屋敷からすっ飛んでいって、椿を案内しているのだ。
……見ていて目の保養になるし。
「むふふ~!む?時計塔の屋上にテラスがあるような?」
「よく見えるね。お金さえ払えば、あそこから一望できるよ」
「おお!見てみたいです!」
「いいよ」
ラターグも椿には甘い。
というわけで、かなり高額な入場料を払って(……不労所得で稼いでいるラターグからすれば端金だが)、エレベーターに乗り込んで最上階に到達する。
「むっはー!眺めが凄いですね!」
時計塔があるエリアは、そのほとんどが『格が高い神々の屋敷が並ぶ区画』である。
都会という眺めは椿も知っているだろうが、屋敷が並ぶという光景はあまり見ないはずだ。
「ラターグさんの屋敷ってどこでしたっけ?」
「あのあたり」
指差した。
椿は見る。
……屋敷が多くてわからない。
「え、どれですか?」
「屋敷の上に大きな枕を置いてるのがあるでしょ?」
「あ、あれですか!」
正気か?
「むー……ラターグさんって頭がおかしい人なんですね!」
「何をいまさら」
自覚あるのか。
ていうか椿ちゃんストレート……。
「……むうっ、天界に来たのって久しぶりですけど……未来とあまり変わらないような?」
「神々に寿命はないからね。そりゃ変わらないさ」
「そういうものですかね。なんだか……つまらないですね。辺境の方がいろいろあって面白いです」
「まあ、辺境って、伝統だけか、伝統に縛られないかのどちらかだからね。さて、そろそろ降りようか」
「むー……はいっ!」
確かに、上から見てもすごいだけで面白みはない。
下に戻って歩き回る方が楽しいだろう。
……椿がどう思うのかは、かなり別とするけどね。




