第千百十二話
アーボンが剣を構えて、フェルノに近づいていく。
だが、それに対してフェルノは刀を構えることなく、ゆったりした様子で歩いていく。
両者の間には圧倒的に緊張感の差があるが、それを見ているラターグはニヤニヤしていた。
「はっ!」
間合いに入ったのだろう。
10メートルは離れているが、アーボンは剣を真横に一閃する。
魔力が固められた『飛ぶ斬撃』がフェルノに向けて放たれた。
「まあ、俺に、小手調べは大体通用しないさ」
フェルノは手刀を真上から叩き込むと、飛ぶ斬撃がバキッ!と悲鳴を上げて、そのまま砕け散った。
「……なるほど、確かに小手調べでは興味すらわかないといったところ……だが、これならどうだ!」
次に、アーボンは剣を真上に掲げて、それを振り下ろす。
再び発生する飛ぶ斬撃。
それだけなら何も変わらないが、問題なのはその威力。
正直、地球人ならかなり上位にいないと防げないような一撃だ。
しかし、フェルノの表情は変わらない。
「……残念だが、それもさっきと大して変わらんな」
手刀を横に振る。
それだけで、斬撃は消し飛んでいった。
「……な、何?」
「さっきのが全力ではないだろう。ただ、少しくらいは表情を変えると思ったかな?だが残念」
「ば、馬鹿な……天界の神々であろうと、ここまで強くはないはず……」
「あ、一応、天界のデータは持ってるのか。確かに、君の指摘は間違っていないよ。だが……中には平均値を出すときに邪魔にしかならない、『外れ値』みたいなやつはいる。それだけだ」
あくびが出そうなほどゆったりしているフェルノ。
「ぐっ……」
「アンタはここに戦いに来たわけじゃないだろう。躾か、蹂躙か、ともかく、相手を『敵』と思ってないのはよくわかる」
フェルノはアーボンから目を離さずに続ける。
「だけど、それは俺も同じだ。俺だって戦いに来ていない。まあ……剣士が剣を抜いていない時点で、それは何となくわかってると思うけどな」
フェルノが左手で柄頭をポンポンと叩きながら言った。
「煽るねぇ。フェルノ」
「お前の知り合いで、戦う場所が天界って条件なら俺が呼ばれるのは分かるが、こんな『些事』で毎度呼ばれてみろ。ラターグだっていやだろ」
「確かに」
ダラダラと話す二人。
「ふ、ふざけるな!」
アーボンが突撃する。
飛ぶ斬撃に意味はないと思ったのだろうか。
元から斬撃の方が得意なのだろうか。
それはわからないが……。
「さてと……お前のそれは、どれくらい強いのかねぇ……」
フェルノは地面をつま先でトントンと叩く。
すると、アーボンのすぐ先の地面が盛り上がった。
「うおっ……がっ!」
地面が触手のように盛り上がると、そのままアーボンを拘束していく。
「さてと、秀星とラターグの方も終わらなさそうだし、こっちはこっちで尋問でもするか」
暇つぶし。
そういう態度を崩さないまま、フェルノはアーボンに向かって歩いていった。
「大丈夫かな。フェルノは『超絶お尻ぺんぺん』っていうスキルを持ってるから、叩かれたらすごく痛いんだけど」
「なんだそりゃ!ってうぉ!手元狂いかけたぞ!」




