第千百十一話
「そろそろ、残り数体になったか」
「瓦礫の山が凄いなぁ……」
六万体の人形の山。
余ほど頑丈に作られているためか、それぞれが上からかかる圧力に負けない上に、複雑な形をしている武器などを持っていた個体も多く『嵩張る』ということが発生した結果、すさまじい大きさになった。
「……残りを片付ければ終わり……ならよかったんだが、誰かが空間の割れ目の向こうに出てきたな」
「ん?」
「さすがに、因子を弄っているのが終わらず、人形をバラバラにされ続ければ、重い腰だってあがるってことだろうねぇ」
ラターグもひび割れた空間の向こうを見る。
すると、その亀裂から誰かが出てきた。
年齢は三十代半ばと言える男性であり、頑丈さと実用性の高い全身鎧を着こんでいる。
盾には剣が納められており、さながら『聖騎士』といったところか。
「どちら様?」
「私はアーボン。君たちが弄っている因子の本体である我が主人に仕える騎士である」
アーボンというらしい騎士は、剣を抜きつつ自己紹介した。
「まず、多数の人形に対して、前座が長くなってしまったことは詫びよう。ここからは、私が君たちを始末し、因子を適切な状態に戻させてもらう」
「コミュニケーションをとる気はないのかな?」
「その必要はない。何故なら……君たちがおとなしく因子を渡す気がないことは、『前座』でわかっているからだ」
「確かにな。因子を簡単にあきらめるのなら、丁寧にそっちの人形をつぶしたりはしないさ」
フェルノは頷く。
ただ、そこに含まれる余裕の表情は崩れることはない。
「ふむ、若さというのは眩しいですな。私のような格上を相手に、そのようにふるまえるとは……」
「まあ年齢はともかく……そういうのは、『昨日よりも強くなる』って言うのを、ずっと続けてきた人間が言えることだ。昨日より一度でも弱くなる日が来るのなら、『年齢』に対した意味はないぞ」
答えるフェルノ。
そして、それに対して若干表情を変えるアーボンである。
わかりやすい挑発……と言えるものでもないだろう。単なる感想に過ぎない。
だが、それで表情を変えるということは、文字通り、『今日の自分は昨日よりも弱い』のかもしれない。
「……そういうあなたは、昨日よりも強いのですか?」
「最近デスクワークが多くてなぁ……ただ、年功序列なんて主義じゃないから、突っ込まれるだけの論理的整合性がないのも確かだ。言われても俺は無視するよ」
減らず口を叩くフェルノ。
それに対してイライラしたのか、アーボンは剣を構えなおす。
「……いいでしょう。この剣の錆にして、わからせてあげます」
「そうかい。できるといいね」
フェルノは余裕を崩さない。
秀星はそれをどう判断しようかと思ったが、ラターグがニヤニヤしているので、問題は少なくともないと思うことにした。




