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第千百十話

 無双モードという表現を秀星は時折耳にするが、フェルノの戦い……いや、『蹂躙』と呼ぶにふさわしいそれは、秀星から見ても、『戦闘力』というものを、酷く納得させるものだった。


 迫りくる人形たちは、そのどれもこれもが、『神器の外側』に使うようなモノが使われており、頑丈さは抜群。


 これを前提に、攻撃力、防御力、耐久性、速度、攻撃の間合い……どれをとっても、スペックという意味で秀星には到底及ばない領域である、


(……そもそも、どんな奴であれ、最高神であればスペックそのものが俺より上であることは分かっている。わかっているんだが……それでも、ここまで完成しているやつを見るとなぁ……)


 刀を使うようだが、まだ抜いていない。


 そうする必要がないということなのだろう。


 圧倒的な実力があれば、素手でも大体何とかなるというのは秀星だって理解している。


 ただ、フェルノほど、『そういったものの関係のなさ』が高いかどうかは別だ。


 どれほど遠くにいようと、拳を空中にたたきつけるだけで、遠くにいる人形を破壊する。


 秀星だってできることだ。


 しかし、秀星以上にできている。


「……秀星君。嫉妬の感情が内側から漏れてるよ」

「あっ……」

「一応言っておくよ?どれほど……それこそ、神祖を師匠に持ったとしても、人間には人間の限界ってやつがある。当然神にもあるけど、やっぱり、それは受け入れなきゃだめだ。秀星君だって、ある時からわかっているパワーバランスのはずだよ」

「……そうだな」

「まあ、そういうことで一々嫉妬する秀星君を見ていると、人間らしさがあっていいけどね」

「そういうなよ」

「フフッ、そう、そういう反論だよ。そういうことをする方がいいさ。まあ……それでも、過剰に否定しても仕方ないって言うのが事実だけどね。フェルノも、いろいろ越えてきたものがあるからさ」

「……だよな」

「これ以上はごちゃごちゃいわないけど……というか、これだけ言えば君のほうも冷めるでしょ。まあ、何でも言えばいいさ。僕みたいな馬鹿は僕の周りにはいくらでもいるし、皆、多少の文句を言われたところでどうとも思わないくらい『大人』だからね」

「……ラターグが大人かぁ。それはそれで嫌だけどな」

「それを認めたくない子はいっぱいいるよ?だから、みんな僕には遠慮しないんだよね」


 フフッと笑うラターグ。


 その表情は、いろいろなものに慣れていて、経験を捨てることなく積んできたものの顔である。


 誰が何と言おうと……ラターグが、友達を作るのが上手いのは事実なのだ。


(……飄々としてるやつが世の中に蔓延るって言うのは、こういうことなのかねぇ)


 ラターグだって最高神。


 ダラダラしているが、単純なスペックは秀星よりも上だ。


(はぁ、世の中ってのは、真面目が損をするようにできてるよなぁ)


 おそらくラターグを見て誰もが思うようなことを、秀星は内心で呟いた。


 まあ、それに留めておくことにしたのも、また事実ではあるけどね。

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