第千百八話
「……で、ラターグの友人って言うのは……」
「ああ。お前のことはラターグから聞いてるよ。秀星。俺はフェルノ。『憤怒神フェルノ』だ。よろしく」
ラターグの屋敷にやってきたのは、腰に刀を吊るした茶髪の少年だった。
憤怒。という言葉を司る割に、かなり落ち着いた雰囲気である。
ラターグよりもかなり『しっかりしている』という雰囲気があり、『こいつがラターグの友人……』と愕然としたものだ。
というより、ラターグは『知り合い』は多いのだが、『友人』と呼ぶ者は少ないのだ。
親友と言っているのは『腐敗神祖』であるシカラチであり、会ったことはないが、1日で364日休む『聖夜神サタニック・クロス』が知りあいにいたりと、どうにも『あまり良い感じ』がしない。
友人。というワードに眉をピクリと動かしたが、フェルノという少年のようにも見える神は、しっかりしている。
「フェルノは僕とほぼ同時期に最高神になった同期なのさ!」
「へぇ……」
ラターグがニコニコしながら紹介する。
常に何かを煽るような雰囲気があるラターグだが、フェルノの紹介に関してはかなりしっかりしている。
「はぁ。まあ、だからこうして呼ばれることもあるってわけだ」
「……苦労人だな」
「ああ。よく言われる」
フェルノはため息交じりにそういった。
まあ、ラターグと関係が深いとなれば、確かにそれは疲れるだろう。
(しっかし、ラターグは堕落神だが、その本質は『怠惰』……その『友人』で『同期』が『憤怒』とはねぇ……)
安直な予測ではあるが、どこか予測が立つ秀星。
ただ、ここでは関係がないのでスルー。
「さっそく指定地に向かうぞ。俺はお前と違って忙しいからな。ラターグ」
「僕だって時期によっては君より忙しくなりますー!まっ、僕は君よりも優秀な部下を集める才能があるから、君より働いていないのは事実だけどね!」
口を開けばあおりを入れるラターグである。
「……秀星。お前コイツのことどう思う?」
「凄く純粋な意味で性質が悪い」
「なるほど、君とラターグの関係は分かった。なら、行こうか」
秀星に対してどこか同情の視線を送った後、フェルノはラターグの方を見て資料を要求した。
★
転移が使えないので、基本的には物理的な意味で高速移動できる手段を使うことになる。
その地点に向かう途中で使用したのは、フェルノが用意していたジェット機だった。
文字通りの意味でとんでもない速度で進んでいるが、内部の揺れは全くない。
「そういや、最近フェルノって何してるの?」
ソファに寝転んで、ジュースをストローで飲みながらゴロゴロダラダラしているラターグだが、どこか気になったのだろう。フェルノに聞いた。
「『外部居住区』の管理だ」
簡潔に答えるフェルノ。
彼が言った外部居住区は、言い換えれば、『天界の中でも辺境と判断される地域』における、人間の管轄である。
秀星が風香と星乃を連れて天界に来たとき、摩天楼が並ぶ辺境に来たが、あのような場所が数えきれないほど存在する。
その中の一つの区画の管理を行っているということなのだろう。
「フフッ。第一世代型の最高神で、辺境勤務なんて君くらいのものだよフェルノ」
ドヤ顔のラターグ。
「不労所得という言葉が好きなお前にはわからんさ」
「なんで!いいでしょ不労所得!働かなくても頭脳を働かせるだけでお金が入ってくるんだよ!?」
「そのせいで時間ができて暇だと思われるから今回のようなことを頼まれるんだろう」
「グハッ!」
遠回しに『本末転倒』と言われてダウンしたラターグ。
「……扱い方が分かってるんだな」
「長い付き合いだからな」
ラターグは天界の歴史の黎明期から存在する神だ。
そのラターグと同期だというのだから、フェルノだってかなり長いだろう。
「ぐ、ぐふっ……ふぇ、フェルノ。まさか僕に本末転倒という言葉をたたきつけるなんて、珍しいねぇ」
「初対面の人間の前でお前より下だと思われるのが嫌なだけだ。上下関係ははっきりさせておきたいだけだ」
「ほう?フェルノが僕よりも上だって?それはとても刺激的な挑戦だねぇ」
「俺の力があればお前の堕落オーラなんぞ貫通できるからな。枕全部燃やすぞ」
「やめてください!」
秒で陥落。
「慣れてるなぁ……」
「弱点というか……欲望がはっきりしてるからな。それを達成するための基盤が定まってるから、意外と正攻法で突いたら弱音を吐くぞ」
「それが理想なんだが……ラターグの堕落オーラって簡単には貫通できないぞ」
「まあ、確かにそれはあるな」
「フフフッ、これでも実力派の最高神だからね!」
「そうだね。うん。そうだよ。ああ」
「雑!」
元気なラターグである。
(ただ……資料を確認するだけでも、今回出てくる邪魔者が相当な実力者であることは秀星にもわかっているはずだ。少なくとも『緊張する程度』を超えるのは確実。そこに向かっているのに秀星がリラックスできるようにしてるのは……)
ラターグをじっと見るフェルノ。
その視線に気が付いたラターグ。
フェルノの視線の『色』を感じ取ったのだろう。彼はニッと笑った。
(……はぁ、世の中には、好き勝手やっているだけなのに、認められて、人が集まる奴ってのはいるもんだ)
内心でラターグを評するフェルノ。
それだけラターグという存在は……まあ、普通にウザいのだろう。
「……あれ、なんか貶されたような?」
「年から年中そうだろ」
「うるせえやい!」




