第千百四話
「ううっ、ネバネバするよぉ。汚いよぉ」
「安心しろ。いつもそんな感じだ」
「んなわけあるか!全身ネバネバでベッドで寝られるわけないでしょ!」
確かに、ラターグの寝室が汚かったことは一度もない。
「はぁ。あそこまで汚くなるとは……」
「てことは、オルゼたちの方もひどくなってる可能性はあるってことか」
「神力をちょっと注ぎ込んだだけで爆発だからな。確かに怪我をするほどの物じゃないけど、散々汚いことになっているだろうね」
「『こんなの資料に書かれてなかったぞ!』って怒鳴り込んできそうだな」
「あー……確かに」
「どうするんだ?」
「『研究途中の資料だって言ったでしょ?』って無限に言い続ける」
怖い。
「……通用するのか?」
「するよ。意外と」
「そうなんだ」
「だって、研究施設を持ってるのはこっちだし、さすがのオルゼ君だって、僕が持ってる設備をよこせとは言えないよ」
「それくらいの倫理観は備わっているのか?奪ってきそうだが」
「神々が強盗を始めて、『許される』ってことがどういうことになるのか。考えた方が良いよ」
「……」
「補足すると、天界の最上位層は、『同じくらいの実力の派閥がいくつもあって群雄割拠中』だからね」
「戦争に突入するな……」
なるほど。それは許されないわけだ。
「まあ、その配下が馬鹿なことをするのはいつものことなんだけどね」
「それは仕方ないわな。ただ、あえて言えば、それで済んでるってことだろ?」
「言い換えればね」
現代日本も同じだ。
日本にいると分かりにくいが、あちこちで『紛争』は発生している。
だが、『戦争』と言えるレベルの物が発生しないのは、各国が核兵器を持っているからだ。
スイッチ一つで、文字通り滅ぶ国だってあるだろう。
だからこそ『理性的』である必要があるのだ。
……言い換えれば、『理性的ではない王』の武力は、『理不尽というに値するものではない』ということでもあるのだが。
「で、オルゼ君はどういうレベルなの?」
「配下レベル」
「奪いに来るやん……」
「いや、でも、僕、第一世代型の最高神だよ?さすがに……」
燕尾服の男性がロビーに入ってきた。
「ラターグ様。オルゼ様がいらっしゃいました」
燕尾服の男性の表情は、いろいろな意味でゆがんでいた。
まるで『汚い物でも見たかのような』感じがする。
「……一つ聞いていい?どんな格好だった?」
「ネバネバのべとべとでした」
「やっぱり……」
「ラターグ。行ってこいよ」
「わかったよ……はぁ。だるいなぁ……」
で、対応しに行ったラターグ。
……隠れてみていた秀星だが、本当にラターグは同じことはをリピート再生していた。
10分くらいそれで粘ると、オルゼ君は不気味そうな表情で帰っていった。
……通用するんかい。




