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第千百二話

「ラターグ様」

「……ん?どうしたの?」


 屋敷の地下。


 ラターグが集めまくった書物が大量に保管されており、秀星とラターグはいくつもいくつも引っ張り出して、それをパソコンに入力してまとめる……という作業を行っていた。


 で、そんな地下に、燕尾服を着た男性が入ってきて、ラターグを呼んだのである。


「オルゼ様が正門に……」

「オルゼが?分かった。すぐ行くよ」

「誰だ?オルゼって」

「今回僕に因子の分析を依頼してきた奴だよ。最高神の一人で、『炎熱神』なんだ」

「へー……四大元素関係の神か。どんなやつだ?」

「……『若気の至り』と『思春期らしい傲慢』を足して2をかけたような奴かな」


 とりあえず、『自分よりも恐ろしいものと対峙したことがない』ということは分かった。


 言い換えれば修羅場をくぐった経験がないともいうが……。


「あ、そうだ。秀星君も来るといいよ」

「え?」

「まあなんというか……今回、僕に因子の分析と確保を依頼してきた奴らの『軸』が分かると思うよ」

「さいですか」


 というわけで、行ってみることにした。


 正門に行ってみると……すでに、少年と言える年頃に見える赤い髪の男が入ってきており、ラターグの平小屋が燃え上がっていた。


「おーい!なんで僕の小屋をぶっ壊してんの!?」

「フンっ!最高神の住居だよ?こんなゴミを置いていたら景観が崩れる。僕はゴミを掃除しただけさ」


 納得。


「うるさいな!どうせ今どきの若者はパソコンと布団があればどうにかなるんだよ!」


 お前若者じゃないだろ。


「最高神としての威厳の話をしているんだ。相変わらず意味の分からない論点のすり替えをするじゃないか」

「ぐぬぬ……」


 唸るラターグ。


 どうでもよくなった秀星は隣であくびをした。


「なあラターグ。お前いっつもこんな感じなんだな」

「秀星君は僕の味方じゃないのかい?」

「親しき中にも礼儀あり。だ」

「僕に礼儀がないというのかい?」

「話が進まないから本題に入ってくれないか?どうせ20分もあれば作れるんだろ?」

「はいはい……」


 味方がいないことを理解したラターグは、オルゼの方を見る。


「で、オルゼ君。何しに来たの?」

「決まっているだろう。分析資料を受け取りに来たのさ」

「まだ研究は全然進んでないよ」

「そんなものはどうでもいい。良いから渡せ!」

「君に渡しても理解できないと思うよ?君が持ってる研究チームって実力的に僕以下だし」

「うるさい!良いから俺のいうことを聞いていればいいんだよ!」

「……まあ、いいか」


 そう。『まあいい』のだ。


 ラターグと秀星の分析では、『どう解析したとしても、御しきれるものではない』というのが因子の存在だ。


 そのため、この段階でデータを渡すことそのものに何の抵抗もない。


 彼らが酷い目に遭うのが速いか遅いかの違いだ。


「……まあ、とりあえずこれを渡しておくよ」


 封筒を渡すラターグ。


 オルゼはひったくるように奪った。


 そして、秀星の方を見た。


「貴様は一体何だ?」

「研究の手伝いだ」

「ふむ……見たことはないが……」

「そりゃ、『神兵ではない人間』だからな」


 基本的に、天界にいる人間は、『神』『神兵』『死んだ人間』の3通りである。


 神兵は生きている人間を他の世界から勧誘したり、死んだ人間から選んだりしているので詳しく言うと4通りになるかもしれないが、とにかく、『死んだ人間は天界に行きつく』という法則があるので、天界は本当に人数が多い。


 ただ、『神兵』は他の世界と天界を移動しやすいのだが、生きている純粋な人間はそうではないので、『見たことがない』というのも納得である。


「ほう……そんな人間が……だが、堕落神のコネか。どうせよからぬことを考えているんだろう」


 ……間違ってはいない。


「だが!因子は神々すらも強化するアイテム。このオルゼ様が因子の力を取り込み、さらなる力を得れば、よからぬことを考えていても、どうでもいいのだ!」


 踵を返すオルゼ。


「堕落神に味方するというのなら、俺様の敵だ。余計なことはするなよ!」


 オルゼ君は帰っていった。


 ……。


「なあ、普通に敵陣地で『敵』って言って来たけど、ラターグはいいのか?」

「別に公言する分には問題ないんじゃない?自己正当性の高いやつっていうのは観察しがいがあるからさ」

「まあ、確かに」


 愚か者であっても理解を得られる場所。


 それが天界だ。


 ……世も末である。

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