第百二話
「俺が率いてダンジョンの遠征がしたいって?」
「そういう話を私は聞いてるよ」
新ダンジョンを作って一週間が経過した。
八代家が管理すると言う形で落ちついており、多くの人間がそのダンジョンを利用している。
新しいダンジョンは、難易度はそれなりにあるのだが、旧ダンジョンより圧倒的に優れている。
イリーガル・ドラゴンとの合同訓練時に混ざって強化された沖野宮高校の生徒達は、高い難易度であってもごり押しできる程度の実力を備えていた。
ただし彼らに取って、浅い層に長時間いることはできても、奥に行くのは難しいようだ。
そもそも、帰ってこられる時間に限りがある上に、こう言ったダンジョンを所有していなかった八代家にはノウハウが無いので備品の販売も薄い。
日帰りであってもギリギリまで残ればそれなりに稼げるのだが、帰る時間を考慮しなければならないし、帰りはダンジョンから取れた素材を荷車などで引っ張りながら、と言うものになる。
さすがにソロで入っているものはいない。
逆に言えば複数の人数でパーティーを組んで挑んでいるのだが、報酬の山分けと言うのは、一番最初にシンプルなもので決めておかないと確実にもめる。
今までは、ぶっちゃけソロで向かってもよかったのだ。
だが、今回からはそうではない。
旧ダンジョンが不便と言うわけではないのだが、新ダンジョンは少々『厄介な状況』といえるものになった。
「目的は……俺がいることで安全を確保すること、ガッツリ稼ぎたいということ、いつも自分たちが挑んでいる層よりも奥のモンスターの情報をあらかじめ入手しておきたい。ってところだろうな」
「私もそう考えてる」
安全であること、今までよりも多く稼げること、今の自分がいる場所よりも奥の情報を集めること。
個人でこれらを達成するのであれば、本当の意味で時間に解決させるしかないのだが、誰か強いものを誘って、それに乗るのも一つの手段ではある。
「風香はどう思うんだ?」
「そうだね。私は悪いことだとは思ってないけど……足りないかな」
「何が?」
「秀星君が貰える報酬だよ。私たちは元プラチナランクで少数精鋭のチームだから、その分すごい金額が発生する。前にダンジョンに向かった時は確かに報酬も多かったからね。秀星君は厄介な部分をいろいろ押し付けられていたような気がするけど」
「それ言っちゃうのか……」
「まあそれはそれとして、誰かの時間を拘束するって言うのはそれ相応に払う必要があるんだよ。もともと、実力のある魔戦士は大金を稼ぎやすいからね」
風香が言っていることを簡単に言えば、『年収でも月収でもいいが、一億稼いでいる人間に対して、諭吉一人で首を縦に振らせようとするのは明らかに無理がある』ということである。
自分で稼げない金額を得るためにチームを組んだり大人数の作戦に参加するわけだ。
ボランティアであることが最初から分かり切っているのならともかく、少なくとも稼ぎというものが最終的な部分である以上、本来ならば、秀星レベルの人間を動かすだけの条件などそろっていない。
秀星は、やろうと思えば一日で一億稼ぐことも無理ではないのだ。
「……まあ、報酬云々はともかく、今回は自分が通ってる学校の話だからなぁ……」
「それがだめだとは言わないよ。強い人が率いるってことそのものが悪いわけじゃないからね。でも、勝手に始めた場合、それをルールとする可能性がある。秀星君が最初にやりだした場合、秀星君のペースを求めようとする人間が多くなるんだよ。秀星君にしかその依頼が来ないって言うのなら私も問題ないと思うけど、秀星君と同じことをしてと言われても私には無理だよ」
「ぶっちゃけるんだな」
「だって秀星君強すぎるんだもん」
「……」
これには黙るしかない秀星。
「で、どうするの?剣の精鋭は、最近は難易度の高いダンジョンに潜るだけだから、短い間なら問題ないと思うけど……」
「多分これからも頼まれるんだろうな……それだけならいいんだが、生徒たちを介して普通のチームまで来ることなんだが……」
「あ、その可能性もあるんだ」
「俺がまざるってことが『勝ち馬』だと思われているからなんだけどな。だからって負けるつもりはないけど」
「あー……わかるよ」
「まあ、それは別にいいだろ。俺が一回『やかましい!』って大きな声で言えば済むことだし」
「秀星君って本当に同い年なの?」
違うが、それを言う秀星ではない。
「まあ、いずれにせよ一回もやらないっていう選択肢はないからな」
「そうなの?」
「馬鹿が騒ぎ出すからな……」
馬鹿というのは、馬鹿なことをするから馬鹿なのである。
余程奇天烈なことをしなければ何も言われないのだ。
「何をしでかすかわからないからな。簡単に言うと無視ができないんだ。それでいて、その他大勢を納得させることもある。そうなると世論が変わるからな。勘弁して欲しいよ」
「秀星君が見てきた中で一番馬鹿な人って誰?」
「俺に決まってるだろ」
即答する秀星に、風香は苦笑いしかできなかった。




