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幼馴染が急に距離を置き始めたので、少林寺拳法始めてみました  作者: 10kg痩せたい
蛇足篇

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第十七話 きっかけ

学──


 玄関に一度、日外を降ろし、靴を脱がせてやる。


「悪いね、まだ力が入らなくて……」


 自分も手早く靴を脱ぐ。真理愛は入ることにまだ躊躇している。


「大丈夫、はやくきな」


 気づいた日外が声をかけた。ようやく靴を脱ぎ、赤ちゃんを抱いて俺の後ろをついてきた。


 リビングについて、日外をソファーに降ろす。手近な棚に入れておいたブランケットを2枚とって2人に渡す。


「ありがと、体温調節うまくいかなくて……助かるよ、南雲くん」




 落ち着いたところで、反対のソファーに座る時子が話し始めた。


「聖奈、もし体調が悪くなるようであれば話の途中でも言ってね」


「うん、わかった」


「じゃあ話すわね」




「どこから話したらいいか……こうしようってきっかけから始めるね」




「私と、学はその日、視聴覚準備室に居た」


「真理愛さんが隣の視聴覚室にいたわ……」


 真理愛が怒りとも悲しみともとれる目で俺と時子を見る。


「せっかちな誰かさんはさっさと逃げちゃったけど」


「私はね……あの日、視聴覚室で『誰か私を助けてよ』ってあなたが言ったのを聞いちゃったの……」


 真理愛が立ち上がる。目からは涙が零れている。


「がっくんにも見られてたなんて……やっぱり……やっぱり憐れみじゃない!あんたなんかに助けてもらいたくないわよ!」


 手で止める時子。聖奈にも促されてなんとかもう一度、真理愛は座った。


「ごめんなさい、先に私から話させて」




「きっかけはその時の真理愛さんの言葉だった」




「勝手な話だけど、私はその言葉を聞いて誓ったわ『わかった……助けるよ』って」


「そこに至るまではいろいろな葛藤があった。私も学のことが好きだったし、離れたくなかった。真理愛さんにも、学が必要で、どうしたらいいのかわからなかった」


「でもね、真理愛さんの言葉を聞いて、真理愛さんも聖奈もみんな助けて、全員幸せにしちゃえばいいんだって思ったの」




「だからね、気に入らないものは潰すし、力になるものは全部手に入れる。誰も私達の幸せを邪魔できない状況を作り上げようって思ったの」


「私は、学も、真理愛さんも、聖奈も、私の好きな人みんなの幸せが欲しくなったの」




「これは憐れみなんかじゃない。心の底からの渇望だった」


「子供みたいでしょ?でもこれが全員まとめて幸せにする計画の第一歩」




 ふぅ……と時子が息をつく。

 緊張、なんて言葉、いつもは感じさせないのに、今日は顔が強張っているのを感じた。汗も凄い。


 真理愛も、時子の言葉に飲まれている。


「飲物を入れるから、少し休憩にしてくれ」


 俺は冷蔵庫から人数分のアイスティを準備した。


 ちょっとトイレ!というので日外を連れて行く。

 真理愛もついてきてもらう。赤ちゃんは……時子に預けたようだ。




 大学の時に比べると大分軽い。元々細い奴だったが、想像以上にやばかったんだな日外。


「立つだけなら何とか出来るんだけどね……脱いだりがまだ駄目そう……入口で立たせてくれる?南雲くん」

「あぁ」


「真理愛、補助おねがい」

「うん」


 日外が中に居る間、2人で並ぶ。言葉は無かった。




 コンコンとノックされ真理愛が入って、準備が出来たら俺に交代した。

 再びリビングに戻り、ソファに日外を座らせた。


「聖奈、まだ大丈夫?辛くない?」


「大丈夫大丈夫、続きに行こ」


 それぞれの席に戻って、続きが始まる。




「計画の二歩目はね、どうやってあなた達を幸せにするか、というすごく大雑把な考えだった」


「でも、これは本当どうしたらいいか私もわからなかった」


「……あなた達に避けられていたからね。どうすれば良いか全然わからなかった」


「だからまず文句を言わせないだけのお金と権力を手に入れることから始めることにした」


「それがあなた達と学の距離をより遠ざける結果になってしまって、ごめんなさい」


 真理愛が目に涙を浮かべる。高校の2年以降は互いに距離を取っていた。だから時子だけが悪いわけじゃない。

 いや、俺こそが真の犯人だったのではないか。そして、幼馴染も同じことを考えていると、なんとなくわかってしまった。


「真理愛」


 日外が真理愛を呼んで抱きしめる。

 俺も……立ち上がって、真理愛の元に行って隣に座る。手を……握る。目が合って……俺は頷いた。真理愛も同じように返してくれた。




 それを見て笑顔になった時子がまた続きを話し始めた。


「同じ大学に来てくれたのは本当にうれしかった」


「セキュリティもつけていたけど、それでも距離が有るのと無いのでは得られる情報と対応速度が段違いだから」


「余計な虫が付かないように動かせてもらったわ」


 そう言って、俺を指差す。

「まぁ命令しなくても勝手にやったでしょうね」と、若干とげのある言い方だ。




「そして、聖奈にも接触させてもらった」


「聖奈の動きも知っていたから、半分賭けだった」


「拒絶されたら離れていくのはわかっていたから」


「賭けには勝てて、それから聖奈とは協力関係を築くことができたの」


「これで、真理愛さんと聖奈の情報を得ることと守ることが出来るのは確定できた」




「あとは私の問題」


「私はどうしたいのか」


「どうすれば『助けられる』のか」




「相談したいのに誰かさんは聞いてくれないし、聖奈は気にするなって言うし本当に困ったわ」


「でも答えは簡単だった」


「言葉通り、私達4人みんなが幸せになればいいんだって」


「そう気づいたの」




「あらかじめお金と権力を手に入れようと動いたのが、ここで役に立った」


「親も会社も世間も黙らす。そのための結果は出した。出し続けた」


「文句なんて誰にも言わせない」


「時間がかかってしまったけど、4年生へ上がる頃にそれはほぼ目途がついたの」


「でもちょっとだけ遅かったみたい。真理愛さんが心の調子を崩してしまった」




「真理愛さん、ちょっとショックを受けるかもしれないから先に言っておくわね」


 真理愛がビクリとする。


「大丈夫」聖奈が呟き、真理愛の手を取る。そして赤ちゃんを撫でる。俺も真理愛を見て、頷いた。




「真理愛さんに学の子供を産ませようって言ったのは私」


 俺と真理愛の空気が凍る。


「そのための舞台を整えたのも私」


「当たるかどうかだけは賭けだった」


「そして私は運さえも味方につけた」




「いやちょっと待て、それはどうやったんだ」


 俺は当然の疑問を投げかける。


「コウノトリさんが運んできてくれたの」


 アハハハハと聖奈が笑う。真理愛は……目を合わせない……。


「記憶にないぞ」


「誰かさんが珍しく酔っぱらってたからね」


 瞬間、教授の送別会が思い浮かぶ。珍しく深く酔ってタクシーに乗って……俺は意識を手放した……。


「は?あの時……か?」


 俺は自分の婚約者が恐ろしくなる。どう考えたらそうなって、そんな行動を起こすんだ。


「どこからどこまでがお前の作戦だ?」


「教授の送別会以外全部」


 クラリと眩暈がする。俺は自分の婚約者に拉致られ、レイプされる計画に巻き込まれた……?


「「普通そんなことはしない」」

 日外と全く同タイミングで発言が被ってしまった。


「おかしいよ、この子。南雲くん結婚して大丈夫?今ならうちの真理愛と交換するよ」


「聖奈ちゃん!」と真理愛に怒られている日外を見る。


「いや放流したらなにするかわからんぞ……」


「たしかに!」


「交換する必要はないわ。だって2人とも娶ってもらうもの」




 再びの眩暈に追加して頭痛もしてきた。俺と日外が頭を押さえている中、真理愛だけがその場に立った。


「なに……言ってるの……そんなこと……できるわけ、ないじゃない……」


「私、言ったわよ。目途が着いたって」

 時子も立ち上がり、胸を張る。


「だって……だって……だって……っ!」


「さっき、学は自分の意思であなたの隣に座って、あなたの手を取ったわ。ごめんなさい、これだけは誇らせて。私の夫になる男はそれが出来る男なの!」




 南雲くん、と日外が俺に声をかける。慌てて補助して日外を立たせる。

 泣いている真理愛を抱きしめて、俺も真理愛を抱きしめた。そして、時子も一緒になって……。


「遅くなってしまって、本当にごめんなさい」






 日外の限界が来たので今日は終わりにした。

 真理愛が泣き止む頃にヘロヘロと座り込んでしまったのだ。明日も点滴に連れてかないとかな。


 用意していた客室……と思っていた聖奈の部屋に抱きかかえて運んで寝かす。

 今日は一緒に寝たいからと、真理愛もその部屋で寝るようだ。


 真理愛の部屋はその隣ですか。俺、何も知りませんでしたね。えぇ、俺が逃げていたのが全部悪いですごめんなさい時子様。


 俺は自分の部屋に入り……ついてきた時子に抱きつかれた。震えている。受け入れられない可能性もあったから……と珍しく弱音を吐いた。

 俺は……最愛だと言っていた彼女に7年以上も1人で頑張らせてしまったのだと言う事にようやく気付いた。





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