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幼馴染が急に距離を置き始めたので、少林寺拳法始めてみました  作者: 10kg痩せたい
蛇足篇

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第十話 時子という女

聖奈──


~大学4年春~


 真理愛がとうとう家から出られなくなった。

 歩かせることはできる。でも家から出た瞬間に泣いてしまう。目からポロポロと涙を流してしまう。心が限界だった……。


 カウンセリングの先生にも来てもらった。病院に行って薬を処方してもらうことを勧められたが……家から離れるほど真理愛が不安定になり行くことが難しかった。




 私は……南雲くんを誘拐してでも、連れてくることにした。可能性があるなら……。そう考えた時に丁度、時子から着信が来た。


「もしもし?」

『こんにちは』

「なにか用事?」

『様子を聞こうかと思って……』


 ホッとする。私が考えていたことを察知されたわけじゃなかった。


「真理愛がもう限界かもしれない。ちょっと考えてることがあるから。あんたに迷惑かけるわけにはいかないから、少しの間連絡できない……」

『……』


 一方的にまくしたてる。こいつに悟られたらそこでおしまい。顔を冷たい汗が流れる……。

 はぁ……と電話の向こうから聞こえてきた……。


『聖奈?それはどうでもよくて』


 私はこいつを侮っていたことを思い知らされる……。


『今度、学がお世話になった教授の送別会があるの。そこで酔い潰れる予定の人がいるんだけど、これ何かに使えないかしら?』


 と。……普通、自分の彼氏を差し出す奴がいるか?居たわ……ここに。いつものムカつくニコニコ顔がこの電話の先に居るのが簡単に想像できた。


「……どういうこと?」


 頭が痛い……でも聞かないわけにはいかないから……念のために確認する……。私と同じことを考えているのかもと……。


『欲しいかなって思って。学の子供』





 た~~~~~~~~~ぷり30秒頭を抱える。いや一発くらい抱かせればって思ってたよ、私だって。それが、こ、子供ぉ!?バカじゃないの!


「バカじゃないの!」


 あ、声に出っちゃった……。


『ウフフ』


 ウフフじゃないが……。


「なんでそんなことしようとするの」


 何の狙いがあるのかわからないからってのが半分。単なる興味が半分。凡人でも、こいつの思考を少しくらいは理解できる……かもしれない。


『まず、盗聴も傍受も何もしてないわ、それは絶対という前置きをさせて頂きます』


『私が東雲さんの立場に立って、あの出来事を受けて、聖奈に支えられて大学を3年過ごしたらどうなるか何回も何回も何回も考えてみたの。寝取り女に彼を奪われて、自分が過ごすはずだった青春を奪われて、じゃあどうするか。寝取り返してやる……か、自分が壊れるか。どちらかだったの』


 それは正しい。今実際にそうなっているから……。


『何回やってもそこに行き着いた。そして覆すにはどうすればいいか、考えたの。ライバル……ここでは私ね。北条時子も不幸にならない方法で。だからね、東雲さんには子供を作ってもらえばいいのかなって考えたの、ウフフ』


 私、頭痛持ちじゃないんだけどなぁ……頭がズキズキ痛くなってきた……。


「あんた、ぶっ飛んでるって言われない?」


 何とか一言だけ振り絞る……。


『よく言われる♪』




 ずきずきと痛む頭を押さえながら。


「じゃあどうするの」

 プランの確認に入る。私に言ったと言う事は、こいつは私が邪魔しようが最後まで完遂できる確証があるから伝えてきたんだ。もう振り返る道は無い。




『タクシーの車を1台用意したわ。無防備な酔っ払いを好きなところに連れてってもらうだけ』

「それだけ?」

『それだけ』


 それは……博打なんてもんじゃない。失敗したら……いいや、子供が出来なかったら?そんな運を味方に付けろって言うことなの、この女は!


『どうする?』


 自信満々に北条時子がそう言ってきて……それを聞いて断れるわけがないでしょ!


「やる」

『良かった♪じゃあ、打ち合わせの時間をあとで送らせて頂くわ』

「あんたさ、これがあんたの傷になるってわかってやるんだよね。旦那が外で子供を作ってたなんて、あの北条グループの総帥がとんでもないスキャンダルになるよ」

『……それが何?私が、私の目的を完済するために、力をつけたの。目的を完遂できるなら、喜びこそすれ、その後がどうなろうが、関係ないわ』


 なるほど~~~~~。お嬢様は、こう言ったけど、『全部片づけた』ということか~~~~~~。あたまいた~~~い。

 なら私がここでブレーキ踏むのも違うよね。アクセル踏ませてもらうから……協力してよね。お嬢様。


『彼が警戒してしまうから1回しかチャンスをあげられないの。だから頑張って、聖奈』


 こうしてたった一度の共同作戦が始まった。





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