第五話 報い
聖奈──
時子の言った通りになっちゃったなって考えていた。
それは仕組まれていた。5人ぐらいのグループだと聞いていた。
いつものように、路地裏に入ったところで襲い掛かったら、前後を多数の男達で囲まれた。
ぶん殴った覚えの顔もいるが……それよりもやばいのが何人かいた。そして、助けたはずの女も……何人か居た……。
そういうことか。
女を売る女がいることは知っている。あの出来事で思い知らされた。こいつも血祭りに……と考えていたが、多勢に無勢。ここまでか……。
諦めて数人でもぶん殴ってやろうと思ったとき、それは来た。
グォン!というエンジンの大音声とともにバイクが突っ込んできた!?
え!?え!?普通に跳ね飛ばしてる!いいのそれ!?
黒いライダースーツに黒いフルフェイスヘルメット。
私の横まで来た瞬間、横倒しで滑らせたバイクが後ろの集団に突っ込んだ。
え……、えぇ……。いいの、それ?
ピリリと肌が泡立つ。やばい奴らが3、4人ほど残ったようだ。
「あんたは、味方なの?」
コクリとフルフェイスが縦に揺れる。
「じゃあ半々で……」
瞬間フルフェイスが走り出す。次の瞬間にはもう2人が崩れ落ちていた。返す刀で挟んでいたもう2人に飛び掛かり、あっという間に全員を潰してた……。
は?
余りの出来事で……呆気に取られる。
私が1人か2人しか相手に出来なそうなのを4人相手して、一瞬で潰して見せた……。とんでもない速さの蹴り……そして突き。
なんだよ……それ……。
戸惑っていると、フルフェイスから携帯を差し出される。見ると既に通話状態だ。
受け取り、その電話を耳に当てた。
『だから言ったでしょう!!!!!!!!!!!!』
耳が痛い……時子だ。時子にめちゃくちゃ怒られた。
じゃあこいつは……。
伸びているクズどもを、どこから出したのかロープで縛っているフルフェイスを見る。
時子のお説教も右から左、馬の耳に念仏だ。
『動くならうちのセキュリティを使いなさい!』
って……ようやく拾えた会話を理解する。
「あはは、部外者にそんな簡単に貸していいものじゃないでしょう……でも、このフルフェイスはまた借りたいかな」
『は?』
珍しく時子の怒る声と、戸惑う声を聞けて満足する。
『ちょっと……』
プツ……。
面白そうな男も……まだいるんだね……。
「説明を求めます」
時子が珍しく歪んだ表情で私の前の席に座る。
「あんたのところフルフェイスのセキュリティがちょ~~と良いなぁって思っただけよ」
ニヤニヤとそう伝えてやるだけで、時子の顔がぐぬぬと歪む。最高に面白いおもちゃを見つけた気分だ。
「それは計画に入っていなかった」
って言ったのは何のことだろう。
「親友の時子さんが、貸してくれるって言うから……そのうち貸してね、あのフルフェイス君」
悔しそうに震える時子を見て、私は笑った。真理愛以外では、久しぶりに心から笑えた瞬間だった。




