第四話 アウトロー
時子──
今日も学に避けられた。東雲さんのことを話そうとするといつもそう。
彼の中では、東雲さんは西片と付き合い、別れた後すぐに別の男と関係を持ち、そして自分にも迫ってきた女。という印象で固まっている。
全てを話そうとしても、いつも逃げられる。
無理やり拘束して話そうとしたら舌を噛み切ろうとした……。
それなのに、いつも気づいたら目で追っている。今日もしつこいサークル勧誘に話しかけられる彼女達を見て走っていった。
でも丁度良い。私が最終的に至ろうとする結果には近づいている。だから、学。しっかり東雲さん達を守ってあげてね?
「時子、すまなかった。そろそろつねるのを止めてくれないか」
「い・や♡」
最近ようやく聖奈とコンタクトを取ることに成功した。
セキュリティに監視させていたから、2人の精神面が、表面上は……安定していることは知っていた。でも、あんなことがあったから、カウンセリングを受けさせたかった。
高校の頃、影さんにお願いすることもあったけど、それは簡単に断られた。友達でもない知り合いから急にカウンセリングの勧誘を受けたのだ。それは警戒するだろう。1年の時にあんなことがあったんだから……。
結果的に私自身でのコンタクトが必要だと判断した。
100回以上は話しかけたと思う。東雲さんを盾にされたり、走って逃げられたり……。でもようやく会話を受け入れられた。
聖奈とは、中学が一緒だった。明るく笑って、クラスの中心になるような女の子だったのを覚えている。……私は少し避けられていた気がする。話したことは無かったけれど……。
高校2年からは変わってしまった。ただ東雲さんを守ることを第一にして、それ以外は全て捨ててしまっていた。
私に対しても、敵対的な視線を送られた。彼女からしたら西片の関係者だから、当たり前だ。ただ、酷く寂しい気持ちになった。
そんな彼女だからだろう。東雲さんは彼女に懐いているように見えた。寂しいけど、でもどこか安心した気持ちが持てた。彼女なら、東雲さんを守ってくれると信頼出来た。
だから、私は彼女も守ることにした。彼女達が不当な扱いを受けないように。彼女達が不当な嫌疑をかけられないように。
使えるものは何でも使った。
そうして、話してみればとても話しやすい可愛らしい女の子であったことに気づく。コロコロと変わる表情。会話のテンポ。声の強弱。その全てに好感が持てた。
東雲さんが、安心して隣に居られる理由が少しわかった。……あれ、なんだか私も、彼女のことを好きになっていない……?
「聖奈」
暗い路地に1人立つ彼女へ話しかける。
「ん~?」
突然現れた私に驚きもせず微笑みながら振り返る聖奈。
「こういう活動は認められないわ」
「あっはは、必要悪だよ。お嬢様には理解できない?」
転がる数人の大学生。いわゆるヤリサーという活動で女性を食い物にしていた男達。彼女は大学に入ってからもう片手で足らないくらいの組織を潰していた。
「あなたが襲われる可能性もある」
「……そんときはそんときかな」
全く気にしないという素振りで……いいえ、本当に受け入れた上で彼女はそう答えた。私の言う事など聞く気はないようだ。
「こういう活動をしていたら、恨みを買う。そしてそれはあなたの周りにも影響が及ぶわよ!」
「脅してる?」
「事実を言ってるだけよ!」
ケラケラと笑い始める彼女。
「でも真理愛はあんたと……南雲くんが守ってるじゃん。だから……それだけは聞けないよ」
瞳が変わる。敵を排除するための目に。一瞬で間合いを詰められる。
「聞かせたいなら力ずくで来な!」
目で追えないほどの速さで足が振り上げられる!
ガツンという音がして、『脚』が交差する。
「学……」
「時子に手を出すな」
驚いた表情が一点、後ろに飛びのいて、顔に笑みを浮かべる聖奈。
「がっくんじゃん!強いね、あんた」
10秒ほどにらみ合う2人。私では止められない。
「……しょうがないにゃあ」
構えを解いて、後ろ頭で手を組む聖奈。先ほどまでのピリピリした空気はいつの間にか霧散した。
「今日は帰るよ、じゃあね時子」
スタスタと何も無かったように歩き出す聖奈。
その日はそれでおしまいだった。
ら、良かったのに。
翌日、私と学がランチしているところに聖奈が来た。場所は伝えてなかったのに……。
「影さんに聞いた」
影さん、覚えていなさい。
べたべたべたべたと興味深そうに学を触っている。
「へぇ~ふぅ~んほぉ~」
「時子、…………排除して良いか?」
はぁ~~~と深くため息をつく。
「駄目」
触られるままに抵抗しない学、ベタベタ触り続ける聖奈という珍しい2人を見る。
「少林寺?」
「……合っている」
「やっぱり!」
格闘技の話で盛り上がり始める2人。2人だけのランチを邪魔されたけど、こういうのだったらありかもしれない……。




