第三話 すとーかー
聖奈──
気づけばなんか最近いつもこいつといる気がしてくる。
今日は近所の喫茶店に入ったのに、奴が先に座っていた……。
「……」
「お座りになったら?」
「どうやってるの?」
「今日のは本当にたまたまよ」
会えば、旧来の友達のように、抱えてた疑問をぶつけ合う。……北条は何でも知っていた。私のことも真理愛のことも。
だから聞きたかったことをただ私から投げつけるキャッチボールをいつもやっていた。
「私もさ、いろいろ考えたんだけど、やっぱりこれは言っとかなきゃってのがあったのよね」
「伺います」
「贖罪、贖罪って言うんだけどさ、私も、あの子も馬鹿な男に惚れて、熱に浮かされて勝手に地獄に落ちただけなんだ。あんたが気にすることではない。これは私たち2人の共通認識だからってこと」
「本当に皆さん、優しいのね……」
「あぁでもあの子はあんたが幼馴染を寝取った悪女だっていまだに言ってる」
「それは……事実だから……」
「はっ!その頃、馬鹿男に熱を上げてたのはあんたでしょって黙らせたから気にしないで」
それでも北条は暗い顔を変えなかった。真理愛のことになるといつもこれだ。
「ねぇ、前も聞いたと思うけど、噂について答え合わせしていい?」
「どうぞ?」
「南雲くんと恋人って噂と、遊んでポイ捨てするつもりだみたい噂は、もちろん恋人が正しいよね」
「当たり前ね、今も付き合っているから」
「パパ活だのホストと遊んでるって噂は?」
「学がいるし、お金も自分でどうにかしてたからやる理由がないわ。それにその噂は1年C組でだけ、流れていた噂なの」
「そうだよね、証言一致だわ……これは真理愛にもまだ言ってない」
「一番真理愛さんを見てるあなたが言うなら、それが正しいと思うわ」
「視聴覚室のヤリ部屋疑惑は?」
「……」
「え?視聴覚室のヤリ部屋疑惑は?」
「……」
「うわぁ……」
「……1回だけだから」
真っ赤になってめっちゃ小っちゃい声だった……ごちそうさまです。
「結局、8月頃には付き合い始めて、幼馴染を放置プレイしていた真理愛には、勝ち目なんかなかったってことかぁ……」
「でも……西片たちに騙されてのことでしょう?」
「それだけだったら真理愛はあんなに抱えてないよ」
「自分が学を裏切った……と?」
「そうだね……」
「それでも、絶対に背負うし償うわ、絶対にあなた達を幸せにしてみせる……」
「それはやっぱり傲慢ってやつじゃない?」
「傲慢でも、強欲でも、なんでもいいわ。私がそう決めたんだから」
「そう……だよね。私も最後に動いたのは、あの子を守りたくなったっていう気持ちだったから……」
「今日……てか今までのことは真理愛には伝えたほうがいい?」
「いいえ、伝えない方がいいでしょう。私もまだ今すぐあなた達を幸せにできるわけじゃないし、東雲さんの心も整理がついていません。全部まとめてどうにかするから……それまで待って欲しい」
「アイアイマム。……とりあえず私達は友達ってことでいいのかな?」
そう言って北条に向かって手を差し出す。
きょとんとその手をみる北条。
「いいの……かしら?」
「私は話聞いて納得した。私達のために動いてくれたこともありがたいと思った。だったらこれからの私達の関係にふさわしい名前は友達じゃない?」
一筋の涙を流す北条。チクショウ、美女はこんなんでも絵になりやがる。
「そう、そうね。よろしくね、日外さん」
「聖奈でよろしくだよ、時子」
ようやっと私の差し出した手を握ってくれた。時子、これからもよろしくね。




