第X+1話 サクラサク
聖奈──
~11か月後~
「これで良かったの」
「いいの」
寒さが一番厳しい時期に、私達は4年住んだシェアハウスを後にした。次は私の就職先に近い住居へ住むことにして。2人……いや3人で暮らすために。
真理愛は2月に無事、子供を産んだ。産後の経過も良好と判断されたけど、でもやっぱりちょっと痩せているかな……。
プルルルル。私の電話が着信音を鳴らす。
「もしもし?」
『……』
「はぁ!?」
電話先の相手はとんでもないことを言いやがった。
「それ、どういうことかわかってるの!」
『……』
相手の言葉に驚愕する。何を考えている。せっかくの作戦が無意味になるではないか。
「どうなっても知らないから」
電話相手にはそれだけ伝えた。
はぁ……と1回だけ大きな溜息をついて、電話を真理愛に渡す。
「ん」
「なに?」
「話したいんだって……あんたの天敵」
電話と交換で、子供の正を真理愛から受け取った。
真理愛──
「……もしもし」
『お久しぶりね、東雲さん』
声だけで誰だかわかる。頭が沸騰するようだ。
「なにか、用ですか」
『ええ、一言だけ』
「なんですか」
『1年に1回くらいは父親に顔を見せに来なさい』
「は!?」
『その時に彼にも全部伝えるから』
「バカじゃないの!あんたたち結婚するんでしょ!」
『そうよ、だから隠し事はなしにしたの』
「……行かないから」
『父親の顔を知らない子供にする気?』
「……」
『待ってるから』
「……」
『彼のバレンタインデーは毎年予定を埋めたから』
「……」
『待ってるわ』
「……あなた本当に狂ってる」
『知ってるし、もっと馬鹿なこと考えてるわ』
「は?」
『ごめんなさい、もう一言あったわ』
「……なに?」
『おめでとう、あなたとあなたの赤ちゃんの健康を祈っているわ』
ブッ、ツーツーツー。頭がもう限界だった。終話ボタンを押して通話を切った。
「ちょっと……よかったの?」
「う……うぅっ……」
寒い道路上なのに、膝をついてしまう……。
「真理愛……」
「いいのかな……会っても……良いのかなあ……」
ボロボロに泣く真理愛。
「良いんだよ、皆で……会いに行こう」




