閑話 VS
学──
「え?常磐線だろ?」
俺は慌てて電話先の時子に確認をした。
今日はオープンキャンパス。ただ、失敗した。時子は前日が仕事のため筑波のホテルに泊まると言い、別行動にしてしまって俺は乗るべき路線を間違えた。
「つくばエクスプレスよ!」
「え?一緒だろ」
「全然違う!」
「ん~でもつくばエクスプレスの駅もあるじゃん」
数年前に繋がったと大学の情報を調べた時に見た気がするな。大学新設と同時期につくばと土浦が繋がったと。常磐線が繋がったワケじゃあなかったのか……。
「そうだけどそうじゃない!つくば駅よ!」
「あー、わかったすぐ向かう」
ドンッ
俺が電話を切ると同時に、細いメガネの男子がぶつかってきた?
いや、
飛ばされてきた。
そこには、見るからに茨城ヤンキーという風貌の3人組がいた。
「君大丈夫」
「あの!早く逃げてください!」
「お兄さんその子返してくれない?」
ヤンキーを睨む。ひょろ……。お前も通信制少林寺拳法をやらないか。
「ん?お~?お前マリーちゃんの幼馴染じゃん」
一番チャラい奴が気安く俺に話しかけてくる。
中田
俺の嫌な記憶の扉が開かれる。
「久しぶりじゃ~ん、元気してた?マリーちゃんと仲良くしてんの?俺らが調教してやったから具合いいべ」
雷が鳴った。
ん?なんだこれ、コンクリート片?拳になぜかコンクリート片が握られている。
気づけば…………ペストリアンデッキの支柱に穴ができていた。
ふと、周りを見渡せば、ヤンキーのうちの2人は……もういない。走って駅の方に逃げている。
中田は……腰を抜かして座り込んでいる。
あ、メガネくんごめんね。驚かせちゃったみたいだね。
俺はニッコリと笑い、面白いことを言った奴に話しかけることにした。
「なあ、お前。今面白いこと言ったな」
「なんて言ったか、もう一度聞かせてくれないか」
手に持ったコンクリート片が粉々に砕け散る。
「お前なんだっけ、中田、だっけ?」
「もう一度、言ってみろよ」
「ああそういえば、初めてだったよ、飯を食って砂の味がしたのは」
メガネの男子──
ついていない。オープンキャンパスのため、電車に乗ろうとしたら同じ学校のヤンキーに掴まった。
逃げようとしても着いてくる。あげく……肩を突いたり足を引っかけてくる。
何度かは避けたが、バランスを崩し倒れこみ……人に当たってしまった。
「君大丈夫」
ぶつかってしまったのに、その人は僕のことを気にしてくれた。でもだめだ!あなたまで巻き込まれてしまう!
「あの!早く逃げてください!」
いつの間にか、僕とその人を囲む形でヤンキーが集まっていた。さっきまで1人だったのに……。
「お兄さんその子返してくれない?」
一番ひょろいけど、でもそれでも僕よりも筋肉がついているし体重も多い奴がそう言った。
こいつにすら勝てない自分自身が嫌になる。
そして、一番やばい奴。転校してきてあっという間に学校一番のワルに収まった中田が出てきた。
バスケ選手みたいな身長に、ボクサーみたいな筋肉。同年代で勝てる奴なんか、居なかった……。
「ん?お~?お前マリーちゃんの幼馴染じゃん」
ぶつかってしまった人と知り合いか?
ニヤニヤしながら中田はその人の顔を睨みつけていた。
身長差は10cn近くあり、筋肉だって中田の方がデカかった。
僕が……僕が止めるから、早く逃げてほしい。動け!動けよ僕の足!
「久しぶりじゃ~ん、元気してた?マリーちゃんと仲良くしてんの?俺らが調教してやったから具合いいべ」
目の前の光景が信じられなかった。
まず、支柱に穴が開いた。
そして音。目の前に雷が落ちたみたいだ。
デッキ全体がグワングワンと揺れるのが視界に入る。
10cm近くも背が高くて、筋肉も大きい中田が腰を抜かしていた。
その人は、左腕一本で中田の髪の毛を掴んで体を持ち上げた。軽々と。
「なあ、お前。今面白いこと言ったな」
「なんて言ったか、もう一度聞かせてくれないか」
手に持っていたコンクリート片が……粉々になった。慌てて僕も破片を拾ってみるが……砕けるような硬さじゃないぞ!
「お前なんだっけ、中田、だっけ?」
「もう一度、言ってみろよ」
「ああそういえば、初めてだったよ、飯を食って砂の味がしたのは」
後日、誰かが撮影していた動画が学校に送られたという噂が立ち、事実、中田は1か月の停学になった。
そして、次に登校してきたときには、僕は真面目です。と言った風貌に代わっていた。
あいつのせいで荒れていた学校の雰囲気は一変した。
僕は、いや俺はあの人に憧れた。
怖かったけど話しかけて、どうやったら強くなれるかを聞いてみた。
一枚の紙をくれた。
時間の経過を感じさせる紙。でもとても大事にしていることはすぐにわかった。
きっと君の番だからとその紙を俺にくれて、その人は去っていった。
カッコつけてたけど、その後行ったオープンキャンパスでまた会った。
だから俺も、修行を始めた。
通信制少林寺拳法をな!
学──
その後、少しお喋りしてやったら……あぁつい力が入りすぎた。
これじゃあ河童みたいじゃないか。
まぁ、いい……
「南雲さん、駄目です」
振り向くまでもない。クラスメイトで、そして今はもう腹心の部下である彼女がそこにいた。
「なにが?」
目が合っただけで、彼女の目が怯えの色を彩り、体が震えだす。
「止めます。どうやってでも。動画も撮ってます。これでじゅうぶ「君は知っていたのか」
ビクリと体を揺らす彼女。それだけで全てを察する。
深呼吸をする。壁に頭を打ち付ける。深呼吸をする。壁に頭を打ち付ける。深呼吸をする。壁に頭を打ち付ける。
「……やめ「あぁ大丈夫だ。もう止める」
無駄に頑丈になったこの体は、もう血すら簡単に出はしない。
「──……なのは俺じゃないか」
ふと見ると、影さんが泣きそうな顔をしている。
「なんで君が泣いているんだ」
「あなたの代わりに泣いているんです」
目元を撫でても、濡れていたりなんかはしない。
「……すまなかった」
自分の馬鹿さ加減に俯いてしまうが、不意に手を引かれた。
「オープンキャンパス、行きますよ」
ボロボロと泣いたままの彼女に手を引かれ、つくばエクスプレスの駅へ向かっていった。
「影さんはなんで土浦に?」
「は?常磐線でつくばに行けると思っただけですがなにか?」




