閑話 進む道
聖奈──
~5月3週~
真理愛の告白失敗から2か月経った。私達は2年に進級。クラス替えは発生したが、私と真理愛は一緒でC組。
南雲くんと北条は別でA組だった。
西片と中田はもういない。あの動画が大々的に拡散されてしまい、何処かに引っ越したらしい、という情報しか得られなかった。
A組の噂好きの子によると、どうやら親子ともども北条によって痛い目に合わされた……らしい。ということだった。
3月に私も北条に相当生意気な口聞いちゃったんだよね……と内心ドキドキしているが、今の所なにもなく平和な学生生活が続いている。
たまに、北条とか南雲くんがこっち見てるんだよね……大丈夫、だよね?
一番変わったのは、真理愛だ。暇があれば勉強とバイトだけをただ繰り返す陰キャガリ勉になっていた。
格好も地味の一言。この前、彼女の視力が落ちていることに気づいて眼鏡を付けさせてからは本当に1年の頃の真理愛と同一人物かわからなくなってしまった。
バイトもファミレスやケーキ屋のキッチン業務で、遊びに行ったとしても会うということも出来なかった。
がっくん、とやらとは没交渉らしい。振られたんだから当たり前か。
たまに、「北条さんと笑いながら歩いてたよ」とボソッて言うくらいになっていた。
気になるなら話しかければいいのにと伝えても、北条さんがいるから、と頑なに行動を起こさなかった。
クラスの男子とも距離を取っている。1年の頃の出来事が、相当なトラウマになっているんだろう。男子と1対1になることを極端に避けた。彼女に惚れたなんて男子はむしろ可哀そうだった。何処から情報を得るのか、避けられるようになって、距離を置かれてしまうのだ。
「ねぇ真理愛。あんたさ、勉強ばかりしているけど志望校かなんかあるわけ?」
「別に……ないけど」
参考書から目を離さずに私へ答える。最近はずっとこれだ。たぶん何かに集中していないと、思い出してしまうからだろう。
ヤられた性行為の記憶じゃなくて、がっくんに振られた時の記憶をだ。
4月中は毎日私の家に来て、ずっと泣いていた。5kgぐらい痩せたと言っていたが胸のサイズが変わっておらず……解せぬ……。
私の方は、正直ほとんど変わらなかった。
男子女子問わずにみんなと喋る。カラオケとかの参加率は落ちたかな。真理愛を放っておけないから。
あとは真理愛に付き合って勉強をするようになった。くらい。
付き合いたいという男子も特にはいない。それも、まぁ真理愛が居れば遊ぶなりなんなり出来たからって言うのがデカいと思う。
わざわざ特定の男子と付き合うメリットが見つからなかったのだ。
だから今は、真理愛で遊ぶのが一番の娯楽だった。
「ねぇ真理愛」
「……なに」
「良いこと教えてあげようか」
「別に……」
今日も真理愛は私の家に泊まっていく。うつ伏せで勉強している真理愛の頭に、頭を乗せた……。
「いいの?あんたの人生に関わることかもよ」
「そんなこと言って、この前スーパーの買い出しに付き合わされるだけだったから要らない」
「そうかぁ……わかったぁ…………がっくんの進路希望見ちゃったんだけどなぁ」
ぐりんと首を回して私に目を向ける真理愛。ホラーだよ、その動きは……。
「教えて……ください」
本当に私の親友は可愛いなぁ……。
「筑波科学大学って知ってる?数年前に新設された理系の大学」
「知ってる……」
「そこなんだって」
机に置いた鞄のところまで歩いて……集めてきたパンフレットをベットに広げる。受験難易度の目安資料も一緒だ。
「この偏差値なら今でD、ううんギリギリCくらいかも。でも受からなかったら……費用も……」
ぶつぶつと独り言を喋りながら思考を始める真理愛。良い起爆剤になったかな?目標があると、やる気が出るよね。久しぶりにイキイキしている親友を見た。
「通学に2時間かかっちゃう……」
「それはどうすれば解決できる?」
「下宿?アパート?でもその費用は……勉強しながらはきつい……」
「ふ~ん……」
ドサリとシェア可能なアパートの情報誌を落としてやる。
「聖奈ちゃん、これ!」
「あ~~~、でも残念。聖奈ちゃんはそんなに頭良くないなぁ……誰か見てくれたらなぁ……チラッ」
「聖奈ちゃん!一生のお願い!」
「ふふふ、かしこまり!」
やっぱり真理愛にとってはがっくんが一番らしい。さっさと踏ん切りつけて、あの北条から奪い返してやればいいのに、ね。
~眼鏡エピソード~
「真理愛、あんた目を擦り過ぎ」
睨んでくる真理愛……ん、違う……?
「ねぇ私の顔見えてる?」
「ぼやけてる」
……もしかして?
近所の眼科併設の眼鏡店に連れてった。コンタクトは怖い、というので眼鏡を選ばせて、視力を測って……。
……うわぁ……地味メガネ誕生!地味度が当社比30%は上がったよ。
「よく見える!」
じゃないよ……高2の女の子なのに……。
「もうちょっとおしゃれなのでも良かったんじゃない?」
「だめ、高い。時給100時間分は無理」
少しはおしゃれに気を使ってほしいなぁ……まぁ男の子が近寄ってくるようになっちゃうから、ちょうどいいのかぁ。




