第二十九話 ごめんね
真理愛──
「じゃあ」と言ってがっくんは来た道を戻っていく。
頭が真っ白だった。
涙も出なかった。
がっくんの言った言葉が全てだった。
『俺達はいつも一緒だったから』
その場所を捨てたのは私だ。
私が西片なんかに、がっくんのいないクラスのことなんかに興味を持たなければ……その場所は私のモノだった。
そして、『噂』の真実は反転する。私が普通の交際で、がっくんが遊ばれているという私の思い込み。
私が遊ばれていただけ……。がっくんは真剣に交際していた……。
その差に愕然とする。
何処で間違えたんだろ。
『やめてくれ』
がっくんが一度だけ明確に拒絶した6月のあの時……。
あの時に私がもっとよく考えていたら……。がっくんの言う事聞いてたら……。
いつの間にか私は地面に座って大泣きしていた。
もう戻れないの?
辛いよ、がっくん
もうだめなの?
悲しいよ、がっくん
ごめんね。がっくん……。
聖奈──
「ちょっとお話良いかしら」
真理愛を迎えに行こうとしたところで、北条に話しかけられる。これから迎えに行く真理愛が『振られる』原因となる女だ。
彼女自身に悪感情を抱いているわけではないが、真理愛の親友としては、なんとなく好きになれない。例えそれが真理愛の自業自得でも……。
「何の話?世間話なら今度にしてくれない?」
「あなたと仲良くなりたくて」
「は?中学から絡んだことなんて一度もないじゃん。あんたの噂なら聞いたことあるけどね」
「どんな噂?」
「視聴覚室をヤリ部屋にしてるって」
笑顔のままフリーズする北条。
「……どうしたの?」
「それは……否定させていただくわ」
「他にもパパ活してるだの、ホストに入れ込んでるだのいろいろ噂が流れてたね」
「そちらは明確に否定させていただくわ!」
「喫茶ポワロのイケメンウェイター」
「それは彼氏よ?」
「ふ~ん、なるほどね」
「それよりも本題。あなたの連絡先を頂けないかしら」
「……あのさぁ、私と真理愛があんたの幼馴染に何されたかわかって言ってるの?」
話しかけられて初めて表情に変化が見えた。苦虫を嚙み潰す顔って奴だ。
「信用できない。だから連絡先なんて交換したくない。これで満足?」
「お願いします」
あのプライドの高い北条が私なんかに頭を下げてきて……顔には出さなかったけど、びっくりした。あのお姫様がそんなことするなんて……。
でも……そんな簡単な話じゃない。
「嫌……じゃあね」
真理愛を迎えに行く。きっとあの子、今頃泣いてるだろうから……。
学──
昇降口で時子と合流する。なんだか苦い顔をしている。
「あのさ、幼馴染から告白された。そんで断った。報告」
「……良かったの?」
「もう何度も言っただろ。俺は時子の隣に居るから」
「たまに居ないじゃない」
「いや、その、ちがくて。まだ合わせる余地があると言いますか!!」
「ふふっ、冗談よ。でも、そうね。例えば私が大罪を犯したとしても、隣に居てくれる?」
「居るよ。もうお前の隣は俺の指定席だから」
ニッコリと時子は微笑んだ。余りの美しさに、背筋が凍りそうなほど……。
「言質、取ったから」




