第六話 決断
学──
~7月3週目金曜日~
先週土曜のあの後、俺はトイレにダッシュして食ったものを全部吐き切った。
出し切って、出し切って、出し切って、胃液も全部出しきったけれども吐き気は止まらなかった。
正直それから今までの記憶はあんまりない。
幼馴染も朝の通学くらいでしか顔を見ない。俺の顔を見てこないから体調不良も気づかれなくて笑ってしまった。
今日も幼馴染はさっさと帰った。
廊下を急いで歩いて行ったがなんだか瞳がキラキラしていた。俺のことなんか振り返りもせずに。
なにかを察したのかクラスメイトも慰めてくれた。何だ、俺の顔はそんなに酷いのか……。
もう諦めるか……。
新しい恋を探すのも悪くない……。
好きな相手……好きな相手……。
女子がクラスメイトの北条くらいしか思い浮かばないが……まぁ難しいんじゃないか、俺には……。
新しい恋を探してみるか……。
そうして俺は、善は急げとまず金銭的な悩みから解消することにする。
爺ちゃんに電話して夏休みの間、喫茶店のバイトに入れてもらう。ついでに婆ちゃんにも変わってもらいパソコンを使って出来る仕事を回してもらう。
俺は高校1年の夏休みを新しい青春のために捧げると決断した。
デートする相手?これから探すんだよ!……うううううっ……(泣)
~7月4週目から8月2週目~
爺ちゃんの喫茶店でウェイターと婆ちゃんのパソコンの仕事を手伝った。
ニコニコ現金払いのおかげであっという間に軍資金は溜まっていった。
遊びたいときは要相談だな、と割と自由なシフトを許してくれた。
俺は空いた余暇で……バイクの教習所へ通うことにした!!!!!!!!!!!!!
爺ちゃんの持ってるCBRに一目惚れしたんだ……男の子はバイクの誘惑に勝てませんでした!
デートのための軍資金は9割飛んだ……。
~8月2週目金曜日~
忘れるところだった。今日は夏休み唯一の登校日。
爺ちゃんにごめんと伝えて、午後からのシフトにしてもらった。
先に行ってもらった幼馴染を追いかける形で俺も学校に登校したのであった。
学校でクラスメイトと久しぶりに会って盛り上がって翌日遊ぶ約束を入れた。
バイトに行って爺ちゃんに土下座した。
俺にっ!クラスメイトとのアオハルを体験させてください!
~8月3週目~
免許センター
「しゃあああああああああああああああああああああああ」
俺は見事勝ち取った。
早速爺ちゃんに報告したら、キーを渡され「行くぞ」と。
もう公道デビューなの!?
今日は近所をグルグルした程度だけど、やったなと爺ちゃんに言われ、婆ちゃんとお寿司を奢ってくれた。
その日食べたお寿司は今まで食べた中で一番うまかった。
余談だが、婆ちゃんから教わったPC知識で作った免許取得用問題集ホームページがとても役に立った。
あとそのページは婆ちゃんに買ってもらって、それも良い収入になった。
大人になったら返すから自分で運営しなとも言ってくれた。
しっかり働いて、俺も爺ちゃん婆ちゃんに寿司でもステーキでも奢ってやるからな!
~8月4週目~
夏休み最後の思い出と、俺はちょっと遠出した。海が見える町まで。
見たことのない町を歩いて。きらきら光る海岸を歩いて。美味しいもの食って、いろいろ遊んで、いろいろ考えた……。
バイトに行くときとかに何度かデートする幼馴染を見た。
吐くことは無くなったけど、それでもその姿を見るのはきつかった。
夏休みになってから俺の家に来ることも無くなった。
幼馴染と、遊びに行ったり、出かけることも無くなった。
……そういうことだよな。
……あんまり未練がましいのもカッコ悪いよな。
夕焼けに揺らぐ水平線へ、石を投げ入れ……。
俺はその日、幼馴染のことを諦めることにした……。




