第二十六話 想像を超えた馬鹿
時子──
~2月3週目~
糞親どもが見てると思っていたから油断していた。
慌てた影さんから中田が東雲さんを連れて行ったと報告を聞く。
「学、ついてきて」
席から動こうとしない学。
バチーン!
クラスに良い音が響く。
「学、ついてきて」
私のことを見て、驚いている学。
バチーン!
クラスに良い音が響く。
「学、ついてきて」
腕でガードしようとする学。
影さんに目配せしてガードを下げさせる。
バチーン!
クラスに良い音が響く。
……10発目でようやく心が折れた。そんな時間は無いから早くしてほしい。
「走るわよ!」
3人で中田の家に走る。途中電話で中田の父親に死刑宣告を入れる。役立たずはもういらない。祖父にもその旨、メッセージを入れる。あとはやってくれるだろう。
ギリギリ、中田と東雲さんが中田のマンションに入ろうとするところに追いついた。今ならまだ!……学が来ていない。30mくらい後方で止まっている。
「学!」
「もう……いいよ」
振り被って鞄を投げる。皮のスクールバックが良い感じに学の鳩尾に刺さった。
「パートナーの話を聞けないってこと?」
1秒でも時間が惜しいのに、土壇場でへこたれるのはやめてほしい。
それにしても最近、私は学への当たりが強くなっている気がした。まぁ頑丈だから大丈夫だろう。
「北条さん!」
影さんに声をかけられて振り返ると中田のマンションに入っていく西片を見る。は?なんであいつが?ノートに書かれていたことが頭をかすめる。
「影!突入準備!」
「はい!」
30秒でバンが着く。中からセキュリティが出てきて扉を無理矢理開ける『ドアノッカー』の準備も整う。
「突にゅ……」
「北条さん!」
影さんが再び私を呼ぶ。
見ると日外さんがマンションに入っていく。
西片と違って、何が目的かわからない……でもドアを開けたのを見た!
「影!ドア確保!」
「はい!」
影さんと数名が既に動き出しており、マンションの自動ドア内に侵入する。そのまま、戦闘向きのセキュリティが3階まで登っていく。
「待機!」
直ぐ突入できるように待機するもの、4Fのドアを監視するものに別れる。
日外さんが敵か、味方かわからない。……それだけは見定めなければ!
私はバンの近くに戻って待機。学はそのへんに倒れてる!
鼓動が高鳴る。私に格闘スキルさえあればと、悔しさが募る……。日外さんが敵ならすぐに突入の指示を出さなければ……。待ってて良いの?突入させるべき?正しい指示を出せているか自信が持てないっ……。
……そこで頭が酷く痺れた。
あぁ、もういいか。 猿どもに何が起ころうか知ったことか。 あとでどうとでもなる。
「突入班聞け、日外聖奈と東雲真理愛を除いて中にいる奴をころ」「北条さん!!」
バンッ!と大きな音を立てて扉を開けて日外さんが、東雲さんを連れて出てきた!
彼女は……味方か?わからない。
「影!」
「わかってる!」
バンに積んでた電動バイクをいつの間にか組み立てて影さんは2人を追跡していった。
真理愛さんがあの部屋から出られたなら……突入は不要になる。それにちょうどアレも来た。
「状況を確認して撤収、ついでにそこで呻いてる学も回収して!」
「「「了解!」」」
私は、路上で土下座してる中年の元へ向かうことにした。
「学、大丈夫?大丈夫?」
なにかがぶつかった後がくっきり学のお腹に残っていた。角が丁度ぶつかってしまったようだ。かわいそう……。
「あ、あぁ……」
なぜかさっきから学が目を合わせてくれない。
ぎゅって押す。
「っあっっっ!!」
学がようやくこっちを見てくれた♪
「痛かった?ごめんね?ごめんね?」
じーっと……真顔のまま、学の目を見てアゲル。
「パートナーの話は?」
「……しっかり聞きます」
「ヨシ!」
「あ~~~~、お取込み中に申し訳ないんじゃが……」
「はい、お爺様!」
「こいつらどうするんじゃ?」
「まだ居たんですか♪」
6人の無責任親が土下座したまま震えている。
「チッ!」
こいつらが馬鹿2人を放置したからどうなったか、教えてやったつもりだったんだけどなぁ。
馬鹿2人はまた行動を起こしやがった。
「燃えるか、沈むか……選んで頂こうと思ってます♪」
「コンプラ的に無理じゃけど……」
「自発的なら大丈夫です♪」
ビクリと6人の肩が震える。
学がなぜか気絶していたので、その間に6人とお爺様には説明を済ませていた。
東雲真理愛が西片と中田に、どういうことをされたのか。そして、今日、何をされそうになったか。
馬鹿2人は部屋でボコボコにされて痛がってるらしいがどうでもいい。
それから6人の姿勢は固定されていた。私が何に怒っているか理解してくれているようだ。
「まぁ冗談はさておいて、恒久的に給料20万固定で子会社の社長をやらせます。手が足りてないんで」
「ふ、ふむ」
「と、時子。冗談はやめなさい!私達がそんな……」
「お爺様、男性同士の映像会社のツテはないでしょうか」
「……ま!時子待って……」
「良いから従っておけや。猿」
かつて親だったものを見下ろした。
ん?なんかお爺様までブルブル震えだした。
お尻の穴程度で済むならいいじゃない……。
それよりも東雲さんだ。今は日外さんがケアをしてくれていると報告が入っている。
正直ホッとした。自殺だって考えられた。最悪のラインは突破されなかった。それをまず喜んだ。
ただ、依然として心の問題が残っている。普通で居られる訳はない。一刻も早くカウンセリングを受けてもらう必要があると考えていた。
状況が知りたい。
私は影さんに連絡を入れた……。
影──
電動バイクで追跡し、2人は日外さんの家に入っていったことを確認。私は今、バンを呼んで、ドローンを使った監視に付いています。
けど、これは報告できるのかなぁ……。あっ、もちろん男性セキュリティは追い出しました!そこは死守!
お姉さま二人と交代で見張っているけど……これはなんて報告すれば……。う~んう~んう~ん……日外さんがタチなのは全面同意だけど……どうしよう……。
深夜、動きがあった。バンの中で交代しながら見張りをしていた。
私の順番になって、先輩方に寝てもらった後、日外家のドアが静かに開いた……。スマホでチームにメッセージを入れた後、電動バイクを使って、出てきた日外さんを追いかけた。
向かう先は、方角的にすぐわかった。胸ポケットにカードキーがあることと、リュックにドローンがあることを再確認する。
中田高貴のマンションに彼女は入っていった。
十数分後、今度はタクシーが正面に止まる。こんな時間に?と思い注視していると、中田高貴が降りて来た。
狙いはなんとなくわかった。もう一度ボコるんだ。
30分後、私の脳みそは死んでいた。
え?日外さんが攻め?中田が受け?え?どういうこと?
カーテンは開けていて外からも見えるようにしている。え?どういうプレ……あ、目が合った……。死が一瞬よぎる……逃げなきゃだけど、監視も続けなきゃ。
先輩方宛に遺書メッセージを送り、ドローンのバッテリーが切れるまで動画を撮り続ける。
あはは、私だってバレてないよね……?
~2月4週目~
今日も情報収集を行っていた。趣味とお仕事の両立である。
あれから、中田高貴は学校に来ていない。
日外聖奈さんは普通に登校して、普通に学校生活を過ごしている。……思うところはある、しかし監視対象への余計な感情移入は禁物である。
東雲真理愛さんは、日外さんがフォローして守っているからか休んでいない。ただ、たまに体調を崩して保健室に行くことがあるようだ。
西片晴は一見変わらないように見える。だが常にイライラしている。親からの収入を止められ、最低限の現金で生活させられているからであろう。女遊びも無理だ。
あとC組から2人消えた。
こちらは話題にすらなっておらず恐怖しかない。この噂を追うことは無い。私はまだ消えたくない。ただ最近、セキュリティに新人が2名入って熱心に教育中と聞く。あー、うーんとえっと~、が、がんばれ!
放課後、帰宅しようとしたところで誰かに肩を叩かれた。
「影さん?だよね。ちょっとお話できるかな」
振り向くと日外聖奈がそこに居た。




