第二十四話 力不足
時子──
~1月2週目~
学への報告は影さんにお願いした。西片と東雲さんが別れた部分だけを伝えてほしい、と。
10分ほどして、影さんから報告終わりましたと連絡を受けた。でも学がいつまでも帰ってこなかった。
影さんが直ぐに調べると視聴覚準備室にいると報告を受け取った。私はすぐさまそこへ走っていった。
ここは下の小窓が開けられたはず。しゃがんで静かに小窓をスライドさせると……開いた!
中を見ると学がいた。
私も素早く準備室に体を滑り込ませ小窓を閉める。
学は……視聴覚室へ通じている扉の前で立ち尽くしている?
学の隣に立つと……パンッパンッと何かを叩く音が隣の部屋から響いてくる。そして、女の子の喘ぐ声が聞こえてきた……。
彼の顔が真っ青になっている……。それで何が起こっているか、私は理解した……。
私達はそれが終わるまでそこで動けなくなっていた……。
1人が外に出て廊下を歩いていく音が聞こえた。
少し間を開けて……彼がふらふらとした足で歩き始めた。
「待ってよ」
隣に響かないように抑えた声で話しかける。
「俺には関係ないから……」
そんなわけない。じゃあなんでそんな幽霊みたいな顔してるのよ……。
音がしないように外へ出て、彼も行ってしまった……。
視聴覚室への扉に手を触れ……自分が関わって良いことなのか、逡巡していると壁の向こうから声が聞こえた……。
「誰か私を助けてよ!!!!!」
数分して、彼女が出ていく音がした……。
私は扉に手を付いたまま、動けない……。
でも心に決めたたった1つのことを口から出した。
「わかった……助けるよ」
~1月2週目土曜日~
西片の家に黒服達を連れて入っていく。
西片の両親が居たが関係ない。セキュリティを使って『黙らせた』。
西片の部屋を全て洗う。
本・写真・パソコン・ベッドの裏・クローゼット。
しらみつぶしに全てを調べさせた。
女性の写真・動画は全て使えないようにダミーと入れ替え。データは復元不可能な方法で削除を行う。1mmでも復元の可能性のあるものは物理削除だ。
そして、盗聴器とパソコンのパケット監視装置を取付させる。合わせて、西片の情報機器から、『情報』が流出していないかを調べさせる。
影さんがノートを見つける。
真理愛と聖奈に対しての日記。スマホで全て撮影してもらう。これも終わった後はシュレッダーだ。
そして、そのノートから、影さんの報告にあった西片と中田の最悪な行為の裏付けが取れてしまう。
「絶対に助けるから」
彼女には聞こえないけど、私は口に出してそう言った。
私は電話をかける。相手は中田の父親。
「なにかあればすぐに動けるようにしなさい。もしも何かあったら、どうなるかわかってるわね」
まだ力が無いから荒事に出来ないのが本当に悔しい。
お爺様から釘を刺されていた。お前はグループを束ねる立場だぞ、と。
あんな奴ら沈めてしまえれば良かったのに……。
~1月2週目日曜日~
学に呼び出される。すぐにセキュリティにお願いして車を出してもらう。
家についてインターフォンも鳴らさず入っていく。
部屋まで急いで上がると……真っ青な顔の彼がいた……。
昨日、東雲さんが彼の家に来たということだった。
ただ、中身が全くの別物で、俺はどうしたら良いと混乱していた。
私は全部知っていたけど、彼には伝えなかった。
今の彼は危険だ。伝えたら心が壊れてしまうかもしれない。私ですら、ここまでダメージを負っているのに。
「大丈夫、安心して。私が今動いているの。だから……」
彼の目を見てしまった。そして、逸らしてしまった……伝わってしまった……ぜんぶじゃない、けど……。
初めて見る取り乱し泣く彼。怒りと悲しさと失った苦しさが混ざった慟哭。
「ちがうの、ちゃんと話をしてあげて!誤解があるの!」
私の声は届かない。届かないことがわかってしまう。
その日から、彼にも監視をつけることにした。
彼自身も危険な状態だと判断したから。




