閑話 過去② 末妹
中田本家 末妹──
キター!!でござるデュフフ。
本家の集まりで見かけた美少年。
彼こそが僕に相応しい。彼こそが僕の王子様。
風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、僕たちのほうに!
しっかり育てよう。デュフッ。
女の子の扱いを教え込んで。
しっかり育てよう。
僕のために。
しっかり育てよう。
完璧な旦那様へ仕上げるために。
しっかり育てよう。
僕はなんでもできた。
勉強も、経営も、お金稼ぎも。
兄も姉も止められなかった赤字を2カ月で黒字にしてやった。
扱いが変わった。
今まで、ごく潰しと言って閉じ込めていたのに。
次の日から僕の席はいつも真ん中だ。
兄も姉も、父も母も、祖父も祖母も、僕に頭を下げる。
そんな中に彼はいた。
僕の王子様。
きっと君も選ばれた人間に違いない。
そう思っていた。
……僕は凡人の扱いがわかっていなかった。
高貴も結局は凡人だった。
王子様なんかじゃなかった。
だんだんと、心が壊れてしまった。
ちょっと詰め込み過ぎただけなのに。
ちょっと僕の良いところを教えただけなのに。
ちょっと裏技を教えてあげただけなのに。
だって僕はこうやって学んだよ。
だって僕はこうやって学ばされたよ。
おかしい、なんで君は出来ないんだ。
おかしい、なんで君は笑顔にならないんだ。
あんなに素敵だった笑顔がもう見られない。
どうしてどうしてどうして。
だって僕の旦那様だよ。
お金だっていくらでもあるよ。
他の人が一生をかけても得られない、全てが得られるよ。
自慢じゃないけど、僕はそこそこ可愛いよ?
幸せだろう?
なんで笑顔が出せないの?
そう思っても僕の王子様は日に日に弱っていった。
怖かった。
兄や姉は黙って従ってくれたのに。
会社の人も黙って従ってくれたのに。
高貴だけが、言う事聞いてくれない。僕の思うとおりになってくれない。
理由がわからない。
……きっと妹ちゃんに会いたいんだ!
そうだ!そうに違いない!
僕に比べたらまだ小さいもんね。だから一度放流して、治ったらまた連れてくればいいや!
そう決めた。
やっぱり僕は天才だ。
それなのに。
高貴が他の男とつるんで女遊びを始めたと聞いた。
は?
心臓が止まる 冗談や比喩じゃない 鼓動が止まる
違う
そうじゃない
治療のために放流したのに
だめだ高貴
君は
僕の
うごいて、私の心臓
だめだだめだ
誰か止めて 高貴を止めて
君は僕が幸せになれるように
そんなことをするために教えたんじゃない
間違っている
汚れる
君の心が 魂が
誰か、高貴を助けてあげて




