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幼馴染が急に距離を置き始めたので、少林寺拳法始めてみました  作者: 10kg痩せたい
もう一人の幼馴染篇

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第十九話 怒髪天

時子──


~10月4週目土曜日~


「お父様、お母様、お話があります!」



 私が東雲さんの保護のためにつけていた西片の監視から上がってくる情報の精度が落ちていた。付き合うことになったというレベルの情報なら入ってこないと『おかしい』

 なので私は、大本に直談判することにした。


「どうした、時子。いきなりじゃないか」


 父が言う。


「時子さん、北条家の娘として、お淑やかさを身に着けるように指導してきたはずですよ」


 母が言う。


 あぁ、こいつらわかってやってんな。


「西片の監視の件です。横槍は入れないで頂きたい」


 のらりくらりとかわされるのがわかっていたので投げるなら剛速球一本勝負だ。


「ハァ……いいか、時子。西片家は今や北条グループに必要な家だ。そのために君達の許嫁の約束を取り付けた。あの家を失えばどれだけの損失が出る?どれだけの社員が路頭に迷うかわかっているのか?晴くんについても、少しやんちゃな部分はあるようだが、多少の若気の至りは見逃しなさい」


 人間の怒りがボーダーを超えると、あぁこうなるのか。一般的な家庭の子供より、何倍も、何十倍も優れた環境で育てて貰えた。

 買えないものはない。与えられないものはない。だから責任が付いて回ることは容易に想像できた。


 だけど、人一人の人生を潰して、大多数が生き残れるからとその道を選ぶことは、この北条時子が『許さない』




「わかりました、それは私と敵対すると言う事ですね」


 我が両親は西片家と北条時子のどちらの価値が高いのかを見誤った。


「後悔しても、もう遅いですからね」




 自室に戻り、電話をかける。


「お爺様、お久しぶりです。久しぶりにお爺様のお顔が見たくて……ご連絡いたしました」




~10月4週目日曜日~


「お爺様、お久しぶりです」


 北条家の娘として恥ずかしくない最上の礼にて、お爺様にご挨拶を行う。


「おーおー、時子ちゃん。綺麗になったねぇ。ま、ま、座りなさい!あ、お菓子もいるかな!?」


「ありがとうございます。頂きます」とニコリと微笑む。


 北条 時文、御年71歳。北条グループ会長。

 私はお爺様が済む都内のタワーマンションを訪ねていた。


「早速ですが、本題に入らせて頂きます」

「うんうん、お爺ちゃんは時子ちゃんの言う事ならなんで~~~も聞いちゃうよ。なにかなぁ」



 

「北条グループを私のモノにさせて頂きます」


「………………は?」


 私はニコリと微笑む。




「発行済株式数、4,786,930,3千株(約48億株)。このうちお爺様が管理している51%をお譲り頂きたいと考えております」


「………………は?」


「あ、ご安心ください。16%は既に保有させて頂いております」


「そそそ、そんな報告は……」

「うふふ、私の作った複数の会社に分散しておりますから」

「つくった?」

「はい、お爺様のご指導の賜物です♪」


「51%のお支払いについても外貨、株式、不動産、会社などなど、資産と出来るものは何でもあります。お爺様のお好みに合わせさせて頂きます♪」



 

「……どうやってそれだけの金額を集めた」

 空気がピリピリと変わった。


 あぁ、そうだ。この人はいつも好々爺然とした姿で人を試す。そして、裏の顔を見せてチクリと毒針で止めを刺すことを好んでいた。

 私はたぶん、この人に似たのだろう。


「ふふふ、それは……」

「それは……?」


「グラフィックス カードの会社の株式で一山当てましたの~お~ほっほっほ~」


 祖父は目をパチクリさせている。

 嘘は言っていない。全ては明かさない。祖父の教えだ。


 祖父と目が合う。それだけで伝わることがある。彼が教えてくれた。


「くっくっくっく……ふぁ~~~~~はっはっは、なるほど、なるほど!そこまでに一番に来たのが、時子ちゃんじゃった。というわけじゃな」


「はい♪」


「わかった、わしの持ち分を全て譲ろう。ただし、支払いはきっちりしてもらう。あと時子ちゃんが成年に達するまではわしが代理人になろう。それでいいかな」


「はい、そちらもご依頼させて頂こうと考えておりました♪」


「諸々処理して、最短で2か月。時子ちゃんが動かせるようにしよう。大変だがわかっているな?」


「はい!」




~11月1週目~


 学を呼び出す。

 ちょっと暗い顔をしている。幼馴染の事だろう。気にしていないなんて嘘。全部わかるって言ったのはあなたじゃない。


 ムカついたから屋上の手前の踊り場まで連れてって押し倒す。無理やり唇を奪って舌を入れてやったら驚いていた。


「ねぇお願い。辛いなら辛いと言って。悲しいなら悲しいと言って。私達はもう互いのことがわかるけど、言葉に出してくれないのは寂しいの」


 彼の大きな手が私の頭を撫でる。


「辛くて苦しい。そして悲しい。でもそれでも俺は時子と一緒に居たいんだ」


 心がふわふわする。でもそれでも私は彼女のことを頭から切り離せない。学のように割り切ることができないから……動いてみようと思う。


「少しね、忙しくなるの。少しの間、あなたとの時間が取れなくなるから、許してね……」





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