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幼馴染が急に距離を置き始めたので、少林寺拳法始めてみました  作者: 10kg痩せたい
もう一人の幼馴染篇

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第十六話 大好き……だったんだ

真理愛──


~10月2週目土曜日~


 今日は珍しく1人で出かけた。

 文化祭の準備も終わり、劇の練習も一区切り。あとは来週の本番に向けて追い込みをかけるだけとなったので、休暇を取ることになった。

 聖奈ちゃんは彼氏の中田 高貴くんとデートするって言ってたし、西片くんは家の用事があるということだった。


 どうせならと近所のターミナル駅に来てウインドウショッピングを楽しんだ。

 高校に入って、ラフな格好はやめて可愛くて大人っぽい服を選ぶようにした。皆と出かけるときにやっぱり少し浮いてしまうから……聖奈ちゃんからアドバイスを貰って最近は大分よくなってきた。




 今日は見るだけと決めて街を歩いているとき。


 私は見つけてしまった。


 がっくんが北条さんと喫茶店で話しているのを。


 それは文化祭のために買い出しへ来た友達に向ける表情とか


 そういうのじゃなくて。


 明らかに好きな女性に向ける表情だった。


「……なんで」


 不意に口から言葉が出てしまう。


 自分は夏休み中、がっくんを放置してクラスの皆と、いいや、西片くんと二人で遊ぶこともあったのに。


 あれ、おかしいな。


 いつの間にか。


 いつの間にか、元に戻る道が消えてしまったような気がするよ。


 あんなに暖かい場所だったのに。


 いつの間にか、私はそこに戻るための……権利を失っていた。




~10月2週目日曜日~


 噂の答えが出た気がした。


 お爺ちゃんのお店の駅で北条さんが年上の男性と会っている話。

 私も会った。彼女はあの駅に行っている。……そして、向かった先は、おじいちゃんのお店じゃないのかな。


 年上の男性……ウェイターさんの格好をしたがっくんはすごく格好良くて大人に見えた。

 私の時みたいにお見送りしてくれていたら……それを見たらそう取られちゃうこともあるんじゃないかな。


 そして、視聴覚室で男の子といた噂。

 それもがっくんだとしたら、この噂の信憑性が高くなる……。




 だから……あの2人は……付き合ってる……?うぅん……がっくんが遊ばれているんだ。でも……私が何か言う権利なんか……あるのかな……。




~10月3週目月曜日~


 文化祭の準備で忙しいけど、西片くんはお家の用事でどうしても帰らないといけないと下校していった。

 私は衣装や小道具の作業があるから、聖奈ちゃんと残って仕事を進めていた。


 17時を過ぎた頃、聖奈ちゃんがそろそろ帰ろうかと声をかけてきた。

 もうそんな時間、と少し暗くなり始めた外を窓越しに見た時、がっくんと北条さんが並んで下校しているのを見てしまった。



 あれ?


 なんで?


 そこは私の……。


 私の……なんだろう……。


「真理愛どうした?片して帰ろー」




 聖奈ちゃんと一緒に帰ることにした。私は今考えていることを吐き出したかったんだと思う。取り留めもなく、がっくんのことを話してみた。

 順番も、説明もぐちゃぐちゃで、何を言ってるのかわからないと思うけど、聖奈ちゃんは静かに全部聞いてくれた。


 う~んと悩んで聖奈ちゃんは立ち止まる。

「ちょっと公園寄っていこっか」




 ガタンッとジュースが落ちてくる音がした。公園入口にある自動販売機でオレンジジュースとレモンティーを買って、聖奈ちゃんの待つベンチに向かう。


「さんきゅ」

 聖奈ちゃんはオレンジジュースを受け取って、お金をくれた。


「相談に乗ってもらうからお金いいのに」

「やーだ。こういうのはきっちりしていないと私が嫌なの」


 いつも遊びに行くとそうだった。奢ったり奢られたりするのが嫌いで、しっかり1円単位まで割り勘を行うのが聖奈ちゃんだった。

 本人曰く、とても気持ち悪いから、それはたとえ恋人という間柄でもね。フェアじゃないのが嫌いなんだと思う、多分ね。と言っていた。




「んで、話の続きね。私、こういう時はっきり言っちゃうから覚悟してね」


 聖奈ちゃんの言葉に私は頷きを返した。


「つまりあんたは幼馴染くんよりクラスの友達を優先したってだけの話でしょ。相手も同じことしただけじゃん」


 がつんと頭を殴られた気がした。


「夏休みも私達と遊んだよね。幼馴染くんとは?」

「遊んでない……」

「だよね」


「でも他の女の子となんて聞いていない……」

「真理愛だって晴と仲良くしてるじゃん」

「……」


「それで、幼馴染くんがクラスメイトと仲良くしてたら嫉妬するんだ?」

「違う!だってがっくんは私の……」

「私の?」

「私の……幼馴染……」


「そう。彼氏でも、付き合いそうなボーイフレンドでもないってことでしょ?それは流石に幼馴染くんには酷いんじゃない?キープ?何かあった時に助けてくれる役?補欠?だから女の子と遊ばないでって言うの?」


「……」


「まあ答えは出てないんでしょうね。ならアドバイスは1つ。どっちが好きなのかはハッキリさせといた方がいいよ、後悔しちゃうからね……」


「……」


 私は何も答えられなくて……いつの間にかぬるくなったレモンティーを飲むことしかできなかった。




「真理愛、私で良ければいつでも相談に乗るから。だから一人で抱え込まないでね。厳しいこと言っちゃってごめん」


「……うん」


 寒い風が吹いてきた。もうじき冬になる……。でもその前に、心の中にとても寒い風が吹いてきた。




~10月3週目金曜日~


「突き放すような答えになっちゃうけど、真理愛が答えを出すのを待てないような男には渡したくないな」


 偶然話せたがっくんは……止めて……くれなかった。やめてくれって今度は言われなかった。

 そうだよ、だってもうがっくんには好きな人がいるんだもん。

 そうか、私は止めてほしかったんだ。がっくんの隣に戻りたかったんだ。

 でももう、それは無くなっちゃったんだ……。


 その後もがっくんが何か言っていたけど頭に入ってこなかった。暖かくしろよって心配してくれたのだけを覚えている。


 力が入らない手で窓を閉めて、毛布をかぶって枕を抱きしめる。ボロボロ、ボロボロと目から涙が零れて止まらない。




 私は……、私は……っ!がっくんのことが、大好き……………………だったんだ……。




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