第十四話 噂(事実)
学──
~9月2週目~
ちょっと悪い噂が流れているのを聞いた。別のクラスの女子が放課後、視聴覚室に入っていく時子を見たという話だ。あんなところで何をしているんだろう?で締められているので実際にナニが行われているかは特定されていないらしい。
それは良かった。とても良かった!が、もう1つ、問題が発生していた。
やばい、時子が一週間も話してくれない状態が続いている。メッセージを送っても、『そう』とだけ帰ってくる恐怖。
絶対に噂のことを怒っている。ちょっと浮かれすぎて警戒心が疎かになってしまった。俺はともかく時子を巻き込んでしまって本当に申し訳ない。
放課後、少し話がしたいとメッセージを送った。また『そう』とだけ返事がきた。
大丈夫だろうか。
放課後、もはや視聴覚室を使うことは出来ない。新しい噂になってはいけないし、クラスメイトにも移動がばれてしまうだろう。下校する振りをして、時子の机に紙片を投げる。
『爺ちゃんの喫茶店で待つ』
爺ちゃんの喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら、時子が来るのを待った。
10分ほど遅れて彼女はやってきた。朝勉強の時につけてたメガネをかけて、髪の毛をポニーテールにしていた。
ポーっと見つめ続けているとその美少女は俺の前の席に座った。メニューから俺と同じくアイスコーヒーを選び爺ちゃんに伝えて、メガネを取った。
そこでようやくその美少女は怪訝な顔をして声をかけてきた。
「……どうしたの?熱中症?」
ハッ!!
「あまりの可愛さに見とれていた」
ハッハッハッと爺ちゃんの笑い声がカウンターから聞こえてきて、途端に真っ赤になる俺と時子。しまったと思ったが、もう遅かった……。
届いたアイスコーヒーを時子が一口飲んだ後、俺は口を開いた。
「その、ごめん。あまりにも可愛くて。あと、学校の噂のこともごめん。もっと用心するべきだった」
「どちらも気にしていないわ。私もあなたと話してしまうと噂が一人歩きしてしまう気がして……声をかけられなくてごめんなさい」
互いに謝りあった。時子はどう対応すればよいかばかり考えてしまって、メッセージの返信が雑になってしまって申し訳ないとも謝ってくれた。
でも良かった、決して嫌われてしまったわけではないと安心できた。
2人でどういうことについて警戒したらいいか、これからのルールについて話し合った。会話の流れで、少し距離を取るべきかもしれないとつい口から出てしまったが、「嫌!」と怒った声で一蹴された。
少し……びっくりした。相手は学年一の優等生かつ美少女だ。友達だっていくらでもいる。
対して俺は時子よりも成績は若干劣るし、見た目もそこまで飛びぬけてはいない。距離をとっても、影響は微々たるものだと思ってつい口から出てしまった。
だが、明確に彼女は否定した。その顔と、瞳と、表情で全てを理解した。
「ごめん。今のは撤回する。一緒に居られる方法を考えよう」
そう言ったら今日初めての笑顔を見せてくれた。
だめだ。なるほど、俺も理解した。離れるのがすごく『嫌』だった。
新しいルールはざっくりと決めた。また何かあったらその時はまた決めよう。
まず放課後、下校は少し時間をずらすこと。
集まる場所は、学校や通学路から外れた場所を都度決めること。
第一候補としては、爺ちゃんの店になりそうだった。
爺ちゃんの店が定休日や忙しい時は、この近辺で探そうと言う事になった。ここら辺なら学校から離れているし、帰りに寄る生徒もまずいないだろう。
遅くなった場合は、俺が送っていくことにした。爺ちゃんからバイクを借りて、時子の家の近所まで送り、家に着くまでは少し離れてついていくことにした。
例の幼馴染くんにあくまでもバレないことが重要だった。
今日も爺ちゃんからバイクを借りて、彼女を送っていった。幸い誰にも出会わず、彼女を無事に送り届けることが出来て良かった。
バイバイと手を振り家に入っていく時子を見送って、俺はバイクを止めさせてもらったコンビニに引き返す。
駐車代としてコンビニでお菓子を買ってヘルメットをかぶったところで知った顔を見かけた……西片だ。
危なかった、どうやらここは近すぎたようだ。
幸いミラーシールド付きのヘルメットをしていたから俺とは気づかれず……西片は店内に入っていった。
少し肝を冷やした。次からはもう少し離れたところにしようと決め、俺は爺ちゃんの家に向かってバイクを走らせた。




