第五話 喪失感
真理愛──
~6月2週目金曜日~
がっくんと下校しようとA組に入ろうとしたところで人とぶつかりそうになった。
「きゃっ、ごめんなさい!」
「こちらこそごめんなさい!……東雲さんで合っていたかしら。急いでいたから本当にごめんなさい」
ぶつかりそうになった人がこちらを心配してくれる。
「うん、大丈夫!えっと……」
背が高くてモデルさんみたいな人がそこにいた。
「北条 時子と申します」
物語のお姫様のようにお辞儀をしてくれて、その笑顔に女の私でもドキリとさせられた。
「あ、えっとその、私は東雲真理愛です!がっ……南雲学君の幼馴染です!」
慌てていて、噛み噛みになってしまい少し恥ずかしい。でもなんとか自己紹介を返せた。
「よろしくね東雲さん。ちょっと急いでるからすぐに行ってしまうけど、今度お話ししましょうね」
「うん!」
北条さんとバイバイした。がっくんはクラスに居なかったから席で待つことにした。
相談、しないと駄目だよね……。
学──
~6月2週目土曜日~
今日は幼馴染が来なかった。嫌な予感がする……。
~6月3週目土曜日~
今日も幼馴染が来なかった。俺は精神を鍛えるために少林寺拳法を始めることにした。近所に道場が無かったので通信制だ。
まず水に浮かべた丸太の上に立ちます。
は?
~6月3週目日曜日~
今日も幼馴染が来なかった。
大きなバケツに水を汲み腕を水平にしたまま丘の上まで歩き水槽に水を貯めます。
は?
~6月4週目土曜日~
今日も幼馴染が来なかった。
頭の高さにぶら下げた砂袋へ頭突きします。
は?
~6月4週目日曜日~
「がっくん、もう少しで試験だから一緒に勉強しよ?」
幼馴染が俺の家に来たが、どこか元気がなかった。俺も俺で元気になんてなれるはずなく。
その日はいつもの勉強会とは違って、カリカリとシャーペンの走る音だけがやたら響いていたのを覚えている。
ぽつりと出た会話はただ一つ。
「あのねがっくん、また男の子から誘われているの。行かない方がいいよね」
「真理愛が行きたくないなら、行かない方がいいんじゃないか。相手にも悪いし……」
「そうだね……」
せっかくの幼馴染との休日なのに、出た会話はそれだけだった。
~7月1週目土曜日~
とあるファミレスにて飯を食っていると隣に例の西片とその友達がたまたま来た。
俺は息を潜めて奴らの会話を聞いてやろうと思った。
「最近どうよ、あの子」
「だめ。マジガード硬い」
「笑える。例の幼馴染とかって奴のせいか?」
「そうなんだよ。毎回相談してるみたいで全部幼馴染に言いくるめられてんの」
ざまぁ、イケメン無様。おまえなんぞに俺の幼馴染が堕とせるか。
「そっちはどーなん」
「こっちはばっちり。もう少しでヤれんじゃね」
「うらやまー」
「だろ~」
こんな糞どもに堕とされる女子がいるのか。早く真実に目覚めてほしい。そしてこいつらに天罰を与えてほしい。
「そういえば幼馴染ちゃんとはどうなの?」
北条の話をし始める。あいつはキレるとやばい女だぞ。少し会話しただけの俺でもわかるぞ。やめておけ。
用事があるのか大して長居もせず奴らは退店していった。
俺はドリンクバーに行き暖かい飲物とジンジャエールを取ってきた。
ジンジャエールを飲み、息を吐きだしてから……イラつきを拳に乗せて……ソファーに叩きつけるのであった……。
~7月1週目土曜日 夜~
「あのね、がっくん。今度クラスのみんなとプールへ行くことになったんだ……行っても……いいかな?」
なんで俺に聞く。俺は断れと言ってもいいのか。お前は俺の言う事を聞くのか?それで真理愛は幸せになれるのか?
もう俺もどうすればいいのかがわからなくなっていた。
精いっぱいの笑顔を作った俺を誰か誉めてほしい。
「気を付けて楽しんでこいよ」
~7月2週目金曜日~
幼馴染が今日は先に友達と帰るらしい。昼に来てそう伝えられた。
土曜日も女友達と!と強調されたがどうやら出かけるらしく明日は俺もフリーのようだ。
ちょっと海が見たいな……。お台場でも行ってみるか……。
~7月2週目土曜日~
お台場に行って、散歩して、飯食って、満足した休日の帰り。近所の混んでるターミナル駅の乗り換えで移動しているとき、遠くに幼馴染を見つけた。
いつも俺に向けるにへ~っとした笑顔を西片に向けていた……。




