第九話 昔から言われてるアレ
学──
~8月2週目金曜日 夏休み唯一の登校日~
あのあと彼女と話すのに6日かかった。
今回は彼女が避けただけでなく、俺もどう接して良いのかがわからなくなっていた。
互いに夢のような時間だったことはわかる。互いに好き合っていることもわかった。
ただ、元の日常へ戻った時にどうしたら良いかだけがわからなかった。
放課後。クラスの皆が早々に下校する中、俺たちは自分の席から動けなかった。
いつもの時間、いつもの教室。
夏休みに入り、なんだかいつもとは違うような空気のその場所で。
ただただ俺たちはどうすればよいか困っていた。
ふと目を上げたタイミングで彼女もこちらを見ていた。ただ、目を離せなかった。
そして同時にコクンと首肯を行った。
荷物を持って、いつもの視聴覚室に移動した。
彼女が先を歩き、俺が後ろに続いて歩いた。
10mくらい後ろをついていく形で、廊下を歩いていく。
「ちょっと、飲物だけ買ってくる」と伝え、俺だけ下の階に歩を向けた。
ガシャンとペットボトルが落ちてきて、2つのペットボトルを持って階段を上がら。
上がり切って廊下に出ると一番奥の視聴覚室の扉の前で彼女が待っていた。
何を話そうか
何を伝えようか
どんな言葉を用いようか
そこそこに長い廊下のはずなのに、歩くのは一瞬だったように感じる。
ペットボトルを渡し、互いに一口だけ飲み込んだ。
部屋に入り、彼女が横にずれたと思ったら……。
腕を引っ張られてキスされた。
キスの味はレモンティーの味がした。
~8月2週目土曜日~
お盆休みなので親は休暇取得中。父方の親戚のところにお出かけ中だ。流石に飛行機の距離があり、バイトもしたいので今回の旅行は辞退した。
「……シャワー貸して」
セミも日照りで殺されそうなほどの暑い日に彼女は俺の家に来てそう言った。
「一緒に入る?」
こちらを挑発するように彼女はそう笑って揶揄ってみせた。俺は俺の本気を見せてやった。
「ちょちょちょ……待って待って待って!!冗談だからっんむぅ……ッ!」
普段の彼女を見ていると、クールビューティーなイメージを持っていたが、実際にはとてもキュートであった。キスはするのも、されるのも好きになった……ようだった。
シャワーを一緒に浴びて場所を自室に移し、ベッドに生まれたままの姿の彼女を寝かせた。恥ずかしくて目を逸らしている。
細い腰にゆっくり抱きつく。キスしてほしそうな顔でこちらを見たからその唇を奪ってやった。
俺はこんなに自分が女性を求めることを想像できていなかった。キスにしても、抱擁にしても、それだけで幸せになって、そして彼女も幸せだと感じてくれた。
体も、心も通じ合っているのがわかった。幼馴染にも感じたことのないそれに俺は興奮していた。
急に、彼女に頬をつねられる。
「……いひゃい」
「別のこと考えてる」
なんでわかった。……それはそうだ。もう心が通じ合っているんだから。
体や瞳や表情でそれはよくわかった。彼女も同じように俺から感じ取っているのだろう。
だからこう全身で表現してやった。お前をこれから抱いてやるぞ、と。
その日は何度も、何度も体を重ねて……心も重ねた。




