第八話 アオハル
学──
~8月1日土曜日~
翌日、全てを説明した上で彼女を俺の家に招待した。
今週の両親は出張のリフレッシュ休暇だと言って、金曜から三連休にして旅行に出かけていた。どうやら仕事で大口の契約が取れたようで臨時ボーナスに期待しろと言う事であった。
朝10時ぴったりにチャイムが鳴る。30分くらい前から俺の家の前を行ったり来たりする不審者がいた気もするが気のせいだ。
ドアを開けるとそこには綺麗で、とても可愛い女の子がいた。
「いらっしゃい」
声をかけると彼女は微笑んでくれた。
「暑かったでしょ、何か飲む?」
コーヒー紅茶抹茶に煎茶ほうじ茶、オレンジぶどうに炭酸ジュース、目についたものは全て買っておいた。
「おじゃまします……じゃあアイスレモンティーがいいかな」
「がってんしょうち!」
コップに氷を数個転がし、冷やしておいた紅茶を注ぎ、レモン果汁を数滴たらし、レモンスライスを乗せた。
彼女は甘党だから普段はガムシロ2つだが、暑くて汗をかいた後でさっぱり飲みたいだろうから1つだけ入れてかき混ぜる。
「おまたせ」
折れ曲がりストローを添えて彼女にレモンティーを手渡した。
「あり……がと、早いね!」
余りの速さにちょっとびっくりさせてしまったらしい。
2人でお茶を飲むだけの静かな時間が経過する。彼女の緊張も伝わるし、机の下の俺の足もガックンガックンブッルンブッルンと震えている。
時子さんはチラチラとこちらを見て、目が合うとビクッとなって目を逸らすことを繰り返している。
それは俺も同じで、彼女の目を見ては逸らすを繰り返していた。
ちょっと待て、俺はこの前キスしたときどうやったんだ!!!!
互いの心臓が跳ねそうな勢いで鼓動しているのがわかり、ドクドクという音が部屋を満たしているように感じる。
どう動けばよい、どう声をかければよい。駄目だ!何も浮かばない!
互いの飲物は既に空になっていた。一触即発の空気。互いに相手の出方を伺っていたその時。
カランッと氷が鳴った。
「「あの!!」」
互いの声が重なりお互いにびっくりし合う。
「と、時子さんからどうぞ」
何とか出せた声に時子さんがビクッと反応する。
「シャワーを貸して頂けませんでしょうか……」
「部屋で待っていてほしい」と言われ、俺は自分の部屋に戻り、正座で待機していた。
階下のシャワーの音が止まり、階段を上がってくる音が聞こえた。心臓はバクバクだ。
数瞬後、部屋のドアをノックされた。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開き、次第に彼女の姿が見えてきた。
バスタオルを巻き、その下は裸体であることが見てとれた。
抱きしめたら折れそうな細さだ。彼女の線の細さは俺にそんな考えを抱かせた。
1歩、2歩と彼女は俺の部屋に入ってくる。俺も1歩、2歩と彼女へ近づいていった。
どうしたらよいかはわからなかった。ただ、どうしたいかとどうしてほしいかは不思議と理解した。
部屋の照明を落とす。カーテンから漏れる光でそれでも明るい部屋の中で。彼女はバスタオルを床に落とした。
他の誰もが関係ない。ただ好き合う2人だけがその部屋にいた。




