第七話 心が重なる
学──
彼女は抵抗せずに口づけを受け入れてくれた。
ゆっくりと……触れるだけのキスを十秒かけてして……ゆっくりと離れた。
彼女の瞳が俺を見て、俺の瞳が彼女を見ていた。
バチーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!
「くぁwせdrftgyふじこlp;@」
何を言ったのか聞き取れなかったが、そのまま彼女はダッシュで逃げてった。
スマホを落としていったので、届けに行ったが、出てきてくれたものの、目を全然合わせてくれなかった……。
その日から一週間、毎日、適当な理由を付けて会いに行ったが彼女と目が合うことは無かった。送ったメッセージも既読無視。
でも不思議と、焦燥感は感じなかった。
手を出さないと誓った後に手を出してしまった不覚を取ったが、あのキスの時に彼女と繋がった感じがしていた。
納得、理解、必要十分、充足、正しい言葉が出てこないけれども、欠けていた何かが埋まったと感じた。
そして彼女も同じことを感じたと、不思議と俺は理解した。
ただ、彼女の心の整理が出来るまで、待てば良いと……わかっていた。
~7月5週目金曜日~
彼女から久しぶりにメッセージの返信が送られてきた。
『ちょっとお話良いかしら』
彼女の家へ移動する。どうやらご両親は不在と言う事だ。彼女の部屋に入るわけにはいかないから、リビングのテーブルにて話し合いは始まった。
「説明を、求めます!」
お怒りだ。お嬢様はお怒りだ。大変だ。これは人生一番の大ピンチだ。
そんなことは一切思わなかった。
「説明、要りますか?」
念のため確認した。
「要・り・ま・す!!」
駄目だった。
「わかりました。簡潔に説明します。俺はあなたに惚れてしまいました」
彼女はしゃがみこみプルプル震えている。
「こうなったら全てぶちまけましょう。本当はあなたを寝取るつもりでした。どんな手段を使ってでも。俺の幼馴染を寝取ったカウンターで北条さんを寝取り返してやろうと。ただ、作戦会議や監視を繰り返す中で、北条さ……いえ時子さんの可愛い一面を見つけるたびに俺の天秤はガックンガックン揺れまして。つい先日の金曜日、その天秤がぶち壊れた、というわけです」
「そう(バシン!)いう(バシン!)ことは(バシン!)きちんと順序を守って行うべきでしょう!(バシン!)」
立ち上がりテーブルを叩きながら彼女は怒りの矛先を俺に向ける。
「俺はあなたが俺と同じことを感じてくれたと確信を持っています」
瞳を見つめながらそう宣言する。再びしゃがみこむ彼女。
テーブルを回り込み、彼女の隣へ移動する。俺もしゃがみ込み彼女と同じ目線になって彼女を待つ。
数秒待ったのちに、彼女が目を上げて……戸惑いながら首肯する。
「説明、要らなかったですよね?」
今度は少しだけ乱暴に、それでも優しく唇を重ね合わせた……。




