第二話 監視(デート)
学──
~6月2週目土曜日~
初めての監視 (デート)。情報は北条からもたらされた。幼馴染と西片がデートをするというものだ。
うそ……何それ……俺聞いてない……。幼馴染から俺へ、学校の事やら細々とした相談はあったものの、俺が否定してからデートについての相談は一切無かった。ふざけやがって!心の中をどす黒い気持ちが満たす。
どうしてやろうかと考えを巡らせているところに声がかかった。
「ごめん、待たせた?まだ集合時間前だと思うけど……」
そこにはスレンダーでクールな格好の女の子がいた。へそ出しカットソーにワイドパンツとサンダル。サングラスとつばが広い深めの帽子という若干アンバランスながらもスタイルの良さから、モデルかと見紛う美女がいた。
「ナナナンパは間に合ってます!」
俺は咄嗟にお断った!北条との約束が無ければついて行ったのに!!!!!!!!!!!!
「なに言ってるの?私だけど」
それは俺と取引を行った北条 時子であった。
ドクンドクンと胸が早叩きする。は、うそだろ。美人すぎるだろ。
普段の制服姿の彼女は見ていた。綺麗だということも知っていた。ただ俺のタイプではないなと思っていた。
それは幼馴染を見慣れていたからであろう。黒髪ロング清楚系でジャンルが被っていると勝手に思っていた。
でも今日の彼女は普段とは違った。メイクをしっかりして、服装も彼女のセンスでまとめられ、普段とは違った綺麗系を前面に出した姿であった。
駄目だ落ち着け、俺はこいつを寝取って奴らにざまぁするんだざまぁするんだざまぁ……。
「ねぇちょっと?平気?」
身を寄せ、俺の顔を除きながら彼女が話しかけてくる。フワリとシャンプーの甘い匂いがする。
兵器はお前だ!ワケのわからない言葉が脳を埋め尽くす。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
早く来てよかった。怪訝な顔をする彼女を待たせ俺は深呼吸をする。
「すまん、ちょっとイライラが暴走して動悸がしてたんだと思う」
俺は彼女から目線を外しながら彼女に伝えた。そう目に入れなければどうということはない!
「……そろそろ待ち合わせの時間だから行くわよ」
「あぁ」
そして俺達は監視 (デート)のため奴らの集合場所へ向かうことにした。
待つこと数分。
「ちょっとあれ見て!」と奴らが合流して歩く姿に対して指を向け俺に身を寄せる。フワリとシャンプーの甘い匂いがする。
目立たないように距離を取り尾行する。
物陰に隠れなくても奴らは会話に夢中だ。一切こちらに気づきはしない。隣を歩く北条からフワリとシャンプーの甘い匂いがする。
ついたのは映画館。どうやら映画を見るようだ。北条が鞄をガサゴソして……オペラグラス!?そんなのよく持ってたな北条。
「恋……人たちって作品みたいね!さ!行くわよ!」ニコニコした顔でこちらを見る。フワリとシャンプーの甘い匂いがする。
「カップル割だって、こっちの方が安いわね」と店員さんにカップルを装うために腕を組んで身を寄せてくる。フワリとシャンプーの甘い匂いがする。
奴らにバレないように暗くなってから侵入する。奴らは中央、俺達は奴らよりも後ろで、端っこの方の目立たない席だ。並んで座って、フワリとシャンプーの甘い匂いがする。
映画鑑賞中、北条は眠いのか俺の方に傾いてきた。いや面白いだろ、しっかり見ろよ。肩にかかった北条の髪からフワリとシャンプーの甘い匂いがする。
シャンプーの匂いしか記憶に残っておらん!!!!!!!!
結局その日は何もなかった。奴らはただ映画を見てカフェに行って解散しただけだった。
「今日は収穫なかったわね」
もはや俺はシャンプーの匂いしか記憶がない。あとたまに柔らかかった。
「ちょっとお手洗いに行ってくるわ。反省会して解散しましょ」
北条が見えなくなった瞬間、俺は自販機に走り600mlの麦茶を買い一気飲みする。
「ブヘァ!!!!」
むせて半分以上をまき散らす。おかげでようやく脳がクリアになった。
北条 時子、恐ろしい女だった……。
俺が残りの麦茶をゆっくり飲んでいると、男女の喧嘩するような声が聞こえてきた。ふとそちらに目を向けると北条が誰かと会話しているところが見えた。
「だから!あんたなんかに興味ないって言ってるでしょ!」
「まぁまぁお姉さん、そう言わずに~。ご飯奢るからさぁ!」
北条の手を掴み、ナンパを行う男がいた。あの程度なら自分でどうにか出来るか?……と思ったが走って近づく。
ギャアギャアと言い合いをする二人の間に入り、声をかける。
「あの、彼女は僕のツレなんでやめてもらえますか」
「あぁ~~~ん、きみ邪魔だからどっか行ってくれない?」
ナンパ男は俺が邪魔だと言って睨んでくる。
「動画も取りました。これ以上、手を離さないというなら警察呼びますよ」
「調子のんなや」
ナンパ男は俺の胸倉を掴んでくる。
ダン!
かかとでナンパ男の足の指をつぶしてやる。
「ガッ……!」
痛みでうずくまるナンパ男。その隙に北条の手を取って逃げ出した……。
駅の反対側まで走って逃げた。流石に距離があったから、止まってどうにか息を整える。
「ごめん、急に走って。大丈夫だった?」
「……大丈夫……ありがと」
急に走らせたからか、顔を赤くした北条がそう答えた。あの日、罵り合ったのが嘘であるように少し落ち込んだような雰囲気だった。
年頃の女の子だもんな……あの時、手を掴まれて振りほどけなくて、彼女は足を震わせていた。
単純に許せなかった。たとえ指の骨が折れてたとしても安いもんだろう。お前はそれだけのことをした。と心の中で伝えておく。
ちょうどあった自販機で600mlの麦茶2本を買い、彼女にも渡す。全力疾走に近かったから喉がカラカラだ。
2人して一気飲みして……。
「「ブヘァ!!!!」」
2人してむせて半分以上をまき散らした。
呼吸も整わないうちに一気飲みは危険だな……。
「「ゲヘッ……ゴホッ……ゴホッ……」」
むせるのが落ち着いて、彼女の方を見てみると、北条もこっちを向いていた。
そして、俺達はおかしくて笑ってしまった。




