第三十四話 壊す
コーキ──
「くそ!あの糞女!それに親父もなんなんだよ!俺は被害者だぞ!」
自宅に戻ってくる。あの後、親父達が入ってきて病院に連れて行かれた。
俺達が喧嘩してケガしたことに、された。
意味が分からない。加害者は日外聖奈だって言っても誰も聞きやしない。
ただ、何かに怯えるように、全てを迅速に終わらせようとしていた。
利き腕も使えないのに退院させられた。どうしろって言うんだ。飯だって左手で食うしかないのか!イライラする!
いつもの癖で、鍵をかけ、リビングに向かう。……甘い香り?どこかで嗅いだ香りが鼻をかすめる。
リビングに入る。誰もいない。でも匂いがほんの少し強くなった。
ベランダにも……いない。残るは寝室……。
嫌な予感がする。開けるなって脳が警告してるけど、ゆっくりと扉を開けていく……。
「はぁい、コーキ」
飛び切りの笑顔の聖奈がそこにいた。俺は走り出す。玄関に向かって。ドアノブを捻ろうとして、鍵が!鍵がかかってる!チクショウ!
「逃げられると思った?」
カッと良い音がした。聞いたことがある。何度かやられた。前のハルの時も。途端に視界がグワングワンと揺らされた。
立って……いられなくなる……立つことを維持できず……床に倒れこんでしまう……。
はるか上から女の声が響いてくる。
「コーキくんさぁ……ちょっと遊びすぎちゃったね……」
「セーナ……?」
「その呼び方やめてくれるぅ?」
折れた右腕を踏みつけられる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア」
「あははは……脳みそぐちゃぐちゃにしてやるから覚悟しな」




