第三十三話 絶望
真理愛──
「なんてな」
背筋が凍った。
また騙された。
「コーキが面白いことするっていうから遊びに来たよ」
心が折れたの。
その場にストンッて体ごと座り込む……。もう動けない……もう抵抗する気もなくなった……。もう……だれもまもってくれない……。
2人がかりで寝室に引きずりこまれる……拒絶する気も……起きなかった……。
聖奈──
放課後、お手洗いから帰ってくるとクラスメイトが話していた。
嫌な雰囲気を感じてドアの裏で聞き耳を立てる。
「あいつら本当に最低だよね~」
「でも自業自得」
「今日は輪姦合宿だ~とか騒いでやがった、ギャハハ」
沸々と脳内の血液の温度が上がってきた。
「まりあっちも残念。高校に入ってひっかかるのが選りにも選ってハルとか」
「視野狭窄」
「ほんそれ」
スッと彼女達の横に移動する。ニコニコとした笑顔で。
「あ、聖奈氏」
頭を掴んで机に叩きつける。2人とも。
「鼻から鼻血、痛そうだね……早く止血しなきゃ」
ニコニコと私は喋る。まぁそんな時間与えないんだけどね。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……1秒でも早く喋ってくれる?」
多分そんなに時間は経っていない。私は走った……。駅に着く頃には息も上がって、汗もすごかったけど気にしてられない。
目的の駅についてからも、私は走った。サラリーマンの人とかぶつかっちゃってごめんなさい。でも今は少しでも早く……。
起こせだの飯買ってこいだの言われてたから入室用のカードキーを渡されていた。別れたのに回収を忘れてた馬鹿に今だけ感謝。
エレベーターが4階で止まっている。走った方が早い。階段に向かう。運動……欠かさないようにしていて良かった。なんとか上り切って、コーキの部屋のドアノブを捻る。鍵がかかっていない!よし!
勢いよく開き中に入る。靴は脱がなくていい!今は少しでも早く!
寝室で……裸にされて泣いてる真理愛と目が合った。
あ~~~~~~、兄貴から血が上ると、お前なにするかわからないから、って言われてたのやっと思い出した。
「鼻から鼻血、痛そうだね……早く止血しなきゃ」
ローファーのまま蹴りぶっこんだから、こいつらも鼻がぐちゃぐちゃだ。
見える範囲のガラスは全部割れてるし、寝室中がめちゃくちゃだ。
馬鹿2人は震えてる。
一気に冷静になった頭が、考える。
何故私はこんなに激怒した?
なぜ?こいつらに雑に扱われたから?No、気持ち良ければ私はどうでも良かった。
なぜ?こいつらに舐められたのがムカついた?No、雑魚にどう評価されようがどうでもいい。
なぜ?真理愛が泣いているから。
Yes、この子は、裏切ってなかったんだ。
「服、着な」
震えながら……真理愛が服を着始めた。泣いてる……けど表情が固まっている。怖かった?辛かった?違う、感情が吹き飛んでいるんだ。
「何もされなかった?」
コクリと首を縦に振る。ギリギリ間に合ったみたいだ。ゴムもつけてなかったから、あと少し遅かったら危なかった。
ムカついたから蹴りで馬鹿共の利き腕を折ってやった。
真理愛はじっと私のことを見ているけど、顔に感情が乗ってない……。間に合ったけど、間に合わなかった……。
手を引いて、コーキの部屋から連れ出して……私の家に連れて行く。
今日は一緒にいないと……。
「全部話しな」
家に向かってる途中で伝えたら、わずかだけれど、真理愛の首が縦に揺れた気がした。
お風呂に入れと言ったけど、なんかそれも出来なそう。
手早く服を脱がせて、体を洗ってやる。ついでに自分も。
髪も乾かしてあげる……長いと時間かかるんだよね……色も抜けてきてプリンみたい。
真理愛のお母さんに連絡。学校でちょっとトラブルがあって相談するから泊まらせますって。
内容は聞かないでくれた、ありがたい……。
真理愛は一言も喋らなかった……いいやきっと喋れなかったんだ……。
だから私はぎゅうって後ろからハグしてやって、話せるようになるまでゆっくり待った……。
「……聖奈……ちゃん」
ようやく真理愛が一言話した。でもその言葉は続かない。
頭を撫でてあげて、良い子良い子と褒めてあげる。
「話はクラスのあの馬鹿女2人から少し聞いた」
そう言うと、真理愛の目から涙が零れた。感情が少し戻ってきたようで、ホッとした。
「しょうがない、聖奈様の胸を貸してあげよう」
私の親友の頭を胸に抱く。今まで堪えていたものが溢れ出したんだろう。私の親友は大声で泣き始めた……。
「ごめんね、ごめんね」って、私もだよ。「真理愛、私もごめんね……」
収まった頃、ぽつりと余計な一言をこぼす親友。
「小さい」
「あ゛?お前が無駄にでけーんだよ」
手と胸で頭をグリグリしてやる。
「痛い痛い痛い!あ、あはは……」
ぎこちないけどようやく笑うことが出来るようになった。
「あんたこのままでいいの」
困惑を顔に乗せて、私を見つめる親友。ムラッ……ん?なんだ今の。
「私さ……あいつらのこと許せない、絶対に地獄へ堕としてやろうって思うんだ」
真理愛にここまで痛い目を合わせたあいつら。さっきのあれじゃまだ足りない。
「あんた、私に協力する気、ある?」




