第二十五話 豹変
真理愛──
凄く嫌だったけど、手を使った……これでまず1つ。
ようやくお酒が抜けてきて、頭が回るようになってきた。
そして、自分が何をやらされているのか、理解した。
なんでこんなこと……と、私がもっとしっかりしていたら楽しい旅行になったはずなのにな……って……。
これは何なんだろう……。
楽しくなんかない……でもハルくんも、セーナちゃんも被害者だ……加害者は……私……。
許してもらえないと……クラスでの居場所が……無くなっちゃう……。
「そろそろ次いい?」
「むりむり!マリーちゃんの手いたいもん。痛くなって抜けなくなったら困るのマリーちゃんでしょ?」
コーキくんが痛い痛いって駄々を捏ね始めた……。
「じゃあどうすれば……」
「ハメハメすればいいっしょ!」
この××××は話を聞いていなかったのか。
「セーナちゃんがだめって言ったでしょ。意味わかってる?」
イライラする。こいつのせいなのに!同じ加害者で罪人のはずなのに!
「でも朝までにあと2個でしょ?出来なかったら、どうなるのかな?」
セーナちゃんが課したノルマはコンドーム3つ分。1つは終わったからあと2つ……。
1つで努力したと認めてもらえるのか、3つじゃないから努力していないと受け止められるのか、どういう評価になるのかわからない……。
「マリーちゃんは、セーナと縁切られて……ハルとも縁切られて……クラスで1人になっちゃわない……?」
……知ってる。クラスの中心はあの2人だ。その2人に嫌われると言う事は……。
「じゃあ手段なんか選んでられなくない?」
コーキは変に頭が回る……反対に私の頭は未来の不安に縛られている……。どうにかしないと、どうにかしないと、と鼓動が早くなる。
「それにシャワー浴びちゃえばバレなくない?」
追い詰められた私の頭は、その意見を肯定した……。馬鹿だった……。
「同意ってことでさ、さっさとしちゃおうよ」
私は受け入れた……。
ノルマが終わり……飛びかける意識の中で、コーキの声が聞こえてきた……。
万が一、駄目になったらマリーちゃんの幼馴染に戻れば平気でしょ。
あっちもハルの幼馴染に遊ばれてんだろ?なにを言われたのか……騙されてポイだろ……。もし凹んでいたらチャンスだぜ。
その直後に私は意識を失った……。
気づくと目の前にはセーナちゃんがいた……私とコーキは裸にお布団で……。
「あっ……」
続く声が出てこない。
パァンと乾いた音が響く。セーナちゃんが私を打った音だ……。
「私が言ったことも守れないんだ」
もう一度打とうとして振り上げた手を……あとから来たハルくんが必死に止めた……。
「セーナ何を!……っ!」
ハルくんにも見られる。私達が昨夜何をしていたか……。
コーキはいつの間にか土下座している。
ボロボロと涙をこぼすセーナちゃん……私はどうして……こんなに馬鹿なんだろう……もう何度も……間違えた……。
「そんなにいいならコーキにしてもらいなよ!」
「コーキやれ!こいつを犯せ!」
いつもあんなに優しい聖奈ちゃんが叫んで暴れる……。コーキを蹴る……。私は友達に……一番してはいけないことをしてしまったんだ……。
聖奈──
感情の波が止められない。
言葉が止められない。手が、足が止められない。
頭をかばって蹲るコーキを殴って、蹴った……。
あんなに一緒に笑いあった友達も、私を裏切った!許せない許せない!抑えが効かなくて手を出してしまった。
「コーキやれ!こいつを犯せ!」
そんなことやらせても……もう何もならないのに。暴風になった私を誰も止められない。
「わかった!わかったから!」
コーキがギブアップした。コンドームを付けて、マリーに近づいていく。
「ハルの前で!自分で腰ふんなよ!ほら、はやく!」
ハルなんかどうでもいい。全部……全部、壊れちゃえばいいと思った。
泣きながらヤられるマリー。アホみたいに腰を振るコーキ。ハルと並んで私はそれを見た。
数分でそれは終わって、終わった途端、マリーはお風呂の方に逃げてった……。
コーキはまた土下座した。
フゥーッフゥーッって自分の息がすごくうるさい。止められない。
激情のままに動いたのに、怒りが全然収まってくれなくて……。
抑えるためのなにかを探すようにハルを見た……。
真理愛──
シャワーを浴びながら、私はかんがえていた
ちょっと前からコーキ、いいやハルくんとしてても、体は反応していたけれども、気持ちがついてこなかった
気持ちいいはずなのに……頭の上でぷかぷか浮かんだ私が、『私』を見ているようなかんじ……
テレビを見ているような……ゲームをしているような……
もうわからないよ こころと からだが はなれていく よ……
聖奈──
ハルのその顔は……。
「あのさぁ、ハル」
ニコニコと笑顔を張り付けて、ハルに近づく。
ハルは『ニヤニヤした顔のまま』私に視線を向ける。
「どうしたんだ……」
カッ。
綺麗に決まったな、と自画自賛。
裏拳をハルの顎に叩きこむ。崩れ落ちるハル。
小鹿みたいだ、プルプルしてる。
「彼女が寝取られてさ、そんなニヤニヤする奴いねーだろ」
何発か蹴ってやる。
ひぃっと言ってコーキがハルから距離をとる。
そうか、イラつく原因はこいつか。
こいつが一番ずれている。
マリーとコーキが性欲だったとして、こいつのこれは性欲とは違うだろ。だからずっと気持ち悪かったんだ。
最後にサッカーボールのように転がしてやって……泡を吹き始めたから許してやった。
「コーキ、そいつ宜しく」
「あ、あぁ……」
コーキもプルプルしてる。あぁこいつには前に何度か喰らわせたっけ。
風呂に行く。シャワーを浴びたまま固まっている真理愛がそこに居た。
「ねぇなんでコーキとやったの?」
こっちを見たけど、何も言ってこない。
涙も出ず、目も開いたままで機械のように「ごめんね、ごめんねセーナちゃん……」と繰り返す。
溜息を1回ついて、マリーを洗ってやることにする。
タオルで拭いて……着替え忘れた。まぁもういいか。裸のマリーをつれて部屋に戻る。
そして荷物を渡して、自分で着替えさせる。
ハルはのびてるし、コーキは部屋の隅でガタガタ震えて目を合わそうとしない。
「コーキ」
ビクンッと反応するコーキ。
「交通費」
それだけ言って手を突き出した。
トロトロしてやがったからコーキをどついて、帰りの電車代とタクシー代をカツアゲする。
「ははっ、プルプルするの流行ってんの?面白いじゃんコーキ」
ムカついたから一発顔面に蹴り、入れといた。
20分くらいしたらタクシーが来たので、自分の荷物を積んで帰ることにする。
「あんたはどうするの、残るの?帰るの」
「……帰りたい」
真理愛の荷物も持ってきて、タクシーに積んでもらう。
駅に着くまでは何も喋らなかったのに、電車の席に座ったら「ごめんね」ってずっと言ってきた。
地元に帰るまでずっと、壊れたオルゴールの真似でもするかのように。
このまま自殺されても面倒だから私の家に連れ込んだ。
親も私の旅行に合わせて出かけているから今日はいない。
簡単な料理を作って出してやる。
なんとか少し食べて、ようやく話せるようになる。
「ごめんね、セーナちゃん……」
「もう100回くらい聞いた。いつまで謝ってんの」
私が少し強い声を上げるとビクッとなって喋れなくなるマリー。
あぁ……。
「……あんなことさせちゃって本当にごめんなさい」
「は?……まぁ普通じゃない?あの程度、クラスの子も言ってたでしょ。……あ、でもマリーとのチューは気持ち良かったかな」
ちゅ。
私のキスに驚くマリー。ようやく目に光が戻った。
「えっ?えっ?えっ!?!?」
戸惑いだけれど目に光がようやく戻った。
……そして私もハルとコーキの気持ちが少しわかった。この子、とってもおいしそうなんだ……。




