第二十四話 旅行
真理愛──
~1月1週目~
電車で二時間くらい、あんなことがあったのに、私達は普通におしゃべりを楽しんだ……。
コーキくんは左の頬に湿布を貼っていたけど、いつも通りに喋っていた……。
後ろめたいのは……私だけかな……。
山の麓にハルくんのお爺さんの家はあった。
掃除はされていて、でも人が居なかったという気配は感じる。
ハルくんに指示してもらって、簡単な掃除とお布団を干した……。
私はセーナちゃんと離れを担当した。
山側で……森の匂いがしてくる部屋で……こんな状況なのにすごく落ち着いた……。
セーナちゃんは……怒ってないように見える……聞いてないのかな……怖くて聞けない……。
私も……いつも通り話せてるかな……。
1時間くらいで寝るところと食事するところの埃はなんとか取れた。蜘蛛の巣もあって、髪についてしまった。
「お風呂入れといたからさ、女子でまず入りなよ」
ハルくんがお風呂を準備してくれていて、私とセーナちゃんは一緒にお風呂へ入ることにした。
広い檜のお風呂。木の匂いがする。
セーナちゃんに頭を洗ってもらって、私もセーナちゃんを洗ってあげた。
少しホッとした。いつものセーナちゃんだ。
お風呂にセーナちゃんと並んで入る。体がポカポカしてあったかい……。
「マリー」
「なぁにセーナちゃん?」
セーナちゃんに呼ばれて顔を向ける。
でも次の瞬間……私は後悔する。笑っていないセーナちゃんがそこに居た。
「コーキとしたんだ?」
あたたかいお風呂に入っているはずなのに……背筋にゾクゾクと寒気が走る……。
セーナちゃんの目を見ていられず俯いてしまう……。
「へぇ……言えないんだ?」
最初は無理矢理だった……でもその次の日のは……ハルくんにも、セーナちゃんにも相談せずに受け入れたんだ……。
「ハルから全部聞いたよ。……録音も聞いた」
ハルくんの時と一緒。私は一番の親友を裏切ってしまって『終わった』という思いを抱いた……。
「マリーがそんなに緩い子だと思わなかったよ……」
声がいつもより低い……初めて聞く、セーナちゃんの怒った声……。ハルくんの時のことも思い出して、息が詰まってしまう……。
「ちょっと休憩しようか……」
動けなくなっている私の脇を持ち上げてお風呂の縁に座らせてくれる……。今……一瞬だけ笑顔になった……?
「……」
気づいたらまた怖い顔……。何も言ってくれない……。ただ、私を睨んでいる……。
「ごめん……なさい……」
「そうなんだ、わかった」
それだけ言って、セーナちゃんは出て行ってしまう……。
セーナちゃんが出ていった後、少ししてお風呂を出る。でも体を拭いた後……自分の服が無いことに気づく。扉にはこちらを見るセーナちゃんが……?
「待って、セーナちゃん!服返して!」
立ち去るセーナちゃんを、裸のまま追いかけた……。
「上がったよ~男子組お風呂いってら~」
「セーナ……?」
ハルくんが声を上げる。セーナちゃんの後ろの私を見ながら……。
「んん~?湯上り美人を見て欲情しちゃった?浴場だけに~あはは」
セーナちゃんは私を気にするハルくんとコーキくんを押すようにしてお風呂に行かせて、私に笑いかける。
「どうだった?マリー?」
怖いくらいに綺麗な氷の微笑み。私の知らない私の親友が、そこに居た……。
あっさりと服を返してくれたから、その場で服を着る……。
「じゃあ、ご飯作りますか」って……私の事なんか気にせずご飯作りを始めるセーナちゃん……。
ハルくんも、コーキくんも、セーナちゃんも何を考えているのか、わからないよ……。
ハルくんとコーキくんがお風呂から上がってきて4人でご飯を食べた。
そして、またお酒だ……飲みたくなかったけど……。
セーナちゃんが私のコップに注いできたから、飲むことになった……。
お酒は苦手だ……。飲んですぐにわかった……私は酔いやすい体質だ……。
ふと気づくと、ソファに寝かされていた。
ぼーっとした頭でそれを見た。見てしまった。
床に蹲って泣いているコーキくん……。
ソファーに座って裸で抱き合っている……ハルくんとセーナちゃん。
あたまがぼーっとして……じょうほうをしょりできない
ハルくんがわたしにはなしかけてくる
コーキに罰を与えることにしたんだ
さいあいの女性がほかの男に抱かれるのがどれだけくるしいか
みたいなことを……言っている
泣いているセーナちゃんの顔を見てしまって……意識が現実に戻される。
「コーキ。前に約束したよな。俺が好きになった人には手を出さないでくれ……って」
「……あぁ」
「前の時、俺は片思い中でコーキに言ってなかったのが悪かった。でもマリーについてはわかっていただろ」
「……すまん」
「これが罰だ」
自然と私の目からも涙が零れた……。
ハルくんが他の人としているのを見て、胸がぎゅっとなって……それに、セーナちゃんにこんなことさせてしまって……ごめんなさい……。
「マリーもこれでわかったか」
「……はい」
「セーナもごめん。こんなことに付き合わせてしまって……」
セーナちゃんは本当に珍しく、怒った表情でコーキくんと……そして、私のことを睨んでる……。
「マリー、このあと私はハルと過ごすから。意味、わかるよね」
セーナちゃんから言葉の氷をぶつけられる。私が背負った罪を理解させられる……。
「あんたには罰ゲームを受けてもらう」
3つのコンドームを私の目の前に投げられる。
えっと思って、セーナちゃんを見上げる。
「セックス以外の手段は問わない。3つのコンドームを朝までにいっぱいにして」
「コーキは後でボコボコにするから」と言われて私とコーキくんは離れに閉じ込められた……。
鍵はかかっていない……逃げられないだけ……。
「そしたら許してあげる」
そう、セーナちゃんは言ったから……。
聖奈──
「じゃあ行こうか、ハル」
「わかった」
私は疑っていた。ハルとコーキと、そしてマリーも。
クラスの緩い子はカレトモとしちゃったとかアホなこと言ってたけどさ。普通しないでしょ。
浮気して、そのすぐ後に当事者全員で旅行?なにそれ、頭おかしいの?
わかった、じゃねーよ。フツーあんたが止めるんじゃないの。こいつは黒だ。
コーキも他の女に手を出したから黒。ただ私が一番ってのは変わって無さそうだから……考え中。
あとはマリー……あんただけだよ……。




