第二十三話 発覚
真理愛──
昨日の夜、メッセージでハルくんの家に来るようにと言われた。
クリスマスのことだよね。怒ってたもんね……。
私は……気分が乗らず、昔着ていた地味な服を取り出して、ハルくんの家に向かった……。
「あのさ、俺に言わなきゃいけないこと、あるよね?」
開口一番、ハルくんは怒った声で私を詰めた。
「クリスマスの日、せっかくいろいろ準備してくれたのにすぐに帰っちゃってごめんなさい」
私はせっかくのお祝い事の日に、帰ってしまったことをお詫びした。
彼がはぁと大きなため息をつく。
「お風呂場にこれがあったんだけど」
ゴムの袋だ……なんで!コンドームはコーキくんが持って行ったから……そうだ、置いたままにしてた……。
「君が帰った後、セーナはお風呂に入らず寝てたと言っていた」
「コーキはシャワーを使ったと言った」
「じゃあ誰がこれを使ったんだ?」
背中に冷たい汗が流れる。顔を見られない。喉と口が渇いて……声を出すこともできなくなった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。なんて言えばわかってもらえる。どうすれば許してもらえる。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
「……正直ショックだよ」
「コーキはちょっと危ないところがあるから気を付けてって言ったよね?」
「それにそういうことがあったとしてもなんで俺に言ってくれなかったんだ」
「マリーにとって俺はその程度の存在だったんだね……」
「ちが……うよ……ハルくんは大切な存在!一番大切な人だよ!だから傷つけたくなかったの!」
「じゃあなんですぐに俺に言ってくれなかったんだい?」
言葉が詰まる。何も出てこない。だってハルくんの隣に居たいから……。だって捨てられたくないから……。だってクラスのみんなにハブられたくない……から。
「あとね、もう1つ聞かなければいけないことがあるんだ。……クリスマスの次の日、何してた?」
空気が凍ったのを感じる。ハルくんが私を軽蔑する目で見ているのがわかる。ハルくんは知っているんだ。
でもあれはコーキくんが悪いんだ!私じゃない!ハルくんならわかってくれる!
「ちがうっ……の。ごほっ。あ……あれはコーキくんに脅されて!」
また、はぁと大きなため息をつく。
ハルくんは細い棒状の機械を取り出す。
「これ、なにかわかるかな」
「……ごめん、わからない」
彼は急に落ち込んだような顔に変わる。
「もう二度と聞きたくないと思ったけど……」
カチッとなにかのボタンを押す。
『コーキくん!コーキくんの方が良いの!ハルくんより良いの!イクッイクッ……止めてぇ!おかしくなっちゃうから!止めて!イクイクイク……』カチッ……。
言うまでおもちゃでイかされた時の音声だ……。録音されたことよりも、彼にそれがばれたことよりも、ただ『終わった』という思いが強く私の心に響いてた……。
「……ごめんなさい」
「それは何に対しての謝罪?」
謝ることが多すぎて、もうわからない。
コーキくんにされたこと?
されたことを黙っていたこと?
そんな状況で彼の家に訪れたこと?
コーキくんの方が気持ち良いと言ったこと?
「コーキにこれをやられるのは二度目なんだ」
「条件付きで許しても良い」
「君とコーキにも同じ目にあってもらう」
「旅行も準備していたのに」
「裏切らないよね?俺のこと」
私はただ、頷くことしかできなかった……。
学──
~12月30日~
年末に幼馴染が久しぶりに来た。
「年末だから挨拶だけしに来たよ!」と。
明るい笑顔を俺に向けてきた。
この前のファミレスの会話もそうだが、どうやらクリスマスはうまく行ったようだ。
「あのね、今度友達カップルと4人で旅行……することになったんだ!」
「……そうか、楽しんで来いよ」
きっと夏休み前くらいだったら寝込むくらいには傷付いてたかな。
でも今なら純粋に彼女の幸せを祈ることが出来た。
「それだけ、じゃあ良いお年を!」
真理愛──
自然と足が向いていた。
今更、何を話すというの。がっくんに全部話して、嫌われたいの……?
でも、一目で良いから顔が見たかった。
ぴんぽ~んとインターフォンを鳴らすとすぐに出てきてくれる。
がっくんの笑顔を見れば自然と私も笑顔を作れた。
「年末だから挨拶だけしに来たよ!(私を助けて)」と。
「あのね、今度友達カップルと4人で旅行……することになったんだ!(おねがい止めてよ!)」と。
「それだけ、じゃあ良いお年を!(がっくん助けて……)」と。
何も……、何も言えなかった……。
言えるわけ……ないじゃない……。




