第二十一話 噂の真相
学──
「結果から言うと、真理愛さんも聖奈もあいつらの流した噂に影響を受けていた」
「ごめん、話の腰を折るけど」
聖奈が手を上げる。
「最後の方の出来事はともかく、付き合う理由については、私は違うよ。噂なんて影響されてない。ただ付き合いやすいから中田を選んだだけ」
「でも……」
「バックアップがあったのは認める。けど付き合うことになった理由はさっき言った通りだよ。ごめん、続きお願い」
「そう……聖奈さんはそう言うけど、今言ったバックアップ……なんて言えばいいかしら、応援部隊、みたいなものがいた。C組の女子生徒2名がそれだった」
聖奈は頷き、真理愛は瞳が揺れた。
俺は念のため、確認をする。
「真理愛によく話しかけていたギャルっぽい2人組か」
「そう、その2人よ」
「いつの間にか消えていたあいつらね」
聖奈の雰囲気が暗く沈む。底なし沼のような深い闇に。
「そう。なぜかお鼻がペチャンコになっちゃったあの2人よ」
時子も同じく常闇のオーラを放つ。
「さっき聖奈も少し言っていたけど、彼女達がC組にいろいろな情報を流していた」
気づくと真理愛が俺の手を握りしめていた。
「彼女達は西片と中田について、真逆の噂を流していたの。ついでに、私もね」
「西片と中田はあぁ見えて真面目で、女性と付き合ったことがないって。逆に私はパパ活しまくる糞ビッチという噂を流された。……学はそんな私に騙されて、遊ばれてるっていう、設定だった」
真理愛の手が震える。
「お願い学、真理愛さんの手を強く握ってあげて」
ああ、わかったと強く手を握りしめた。
「そして、西片を持ち上げたり、少し貞操観念の緩い女性が男に好まれるという毒を真理愛さんにゆっくりゆっくり……刷り込んだ」
ぶつんと何かが切れる音がした。視界が赤く染まる。立ち上がりかけたところで……つないだ手が震えていることに気づいた。
「学、今すべきことを見誤らないで」
6秒程度ではこの怒りは収まらない。だけれども、唯一繋がったこの手のひらが何をすべきか思い出させてくれた。
「繰り返すけど、馬鹿2人にはこの世の地獄を。そして女性2人にも現在進行形で罰を与え続けているわ。1つだけ、私の言えることがあるとすれば……もう手が出せないこと、これがあなたへの罰よ、学」
「ごめんなさい、八つ当たりよ。話を戻すわ」
「それ以外でもちょっとずつ真理愛さんは誘導された」
「幼馴染の忠告をすこしくらい無視しても問題ないと言われたり。西片と付き合えばクラスの中心になれると言われたり。いざとなれば幼馴染を誘惑すれば戻れると言われたり。細かいことも含めるともっといろいろあるみたい。そして、女性2人だけでなく、他のクラスメイトも自然と西片や真理愛さんを祭り上げるように操られていた」
「C組は中田が全部コントロールしていたの」
「は?」
聖奈が声を上げる。
「西片にそんな頭があるわけない。中田も同じレベル……、私もそう思い込まされていた。あいつは……人の心を掌握したり、操ったりする、凄く嫌な言い方になるけど、中田にはその才能があった」
「嘘……でしょ?」
聖奈が信じられないという顔をする。
そして繋いだ手が強く握り締められる。
「これは話すか迷ったわ。話したところで過去は変わらない。辛い思いをするかもしれない。でも、あれが真理愛さんや聖奈の本当の意思じゃなかったって知って欲しかった」
「あの時の……真理愛の行動は全部こいつらが仕組んだ結果だったということか」
「ええ……そうよ。私はそう考えています」
時子が、罰だと言った。それは俺であっても2度と会うことが出来ない場所に送られたという意味。
糞みたいな目に合ってるのもわかる。何だったら死んでるかもしれないこともわかる。
ただ。
ただ、ただ、あいつをブチ殺したい。
「学」
時子が、実の親に向けるような、冷たい声で俺を呼んだ。
「もう一度言うわ。あなたが今すべきことは、何?」
隣から泣き声が聞こえているのにようやく気付いた。
今一番辛いのは……。
「時子、聖奈。正のこと頼んだ」
「ええ、お願いされるわ。だからあなたもお願いね」
泣いている幼馴染を担ぎ上げ、俺は自分の部屋に連れて行くことにした。




