第九話 相談
真理愛──
~9月2週目日曜日~
事前にメッセージを送って空いてる時間は確認したけど、久しぶりの訪問だからインターフォンを使う。
ぴんぽ~んと音が鳴り、がっくんのお母さんが出た。
がっくんに用事があることを伝えると「2階にいるからどうぞ上がって」といつもの優しい声で私を通してくれた。
コンコンとノックをして、がっくんの反応を待つ。
ちょっと前まではしなかったなと思い出す。
カチャリとドアの音がしてがっくんが出てきてくれる。
「どうした?入らないのか」
あははとごまかし笑いをして……「おじゃまします」と伝えて、彼の部屋に入らせてもらう。
2か月ぶりだ……。何も変わっていないはずけど、なんだかちょっと変わってしまった気もしていた。
少しだけ……優しい制汗剤の匂いがした。
「相談って言ってたけど、どうした。何かあったか?」
夏休み前と変わらずいつも通りに優しいがっくん。
また少し胸のあたりがズキリと痛んだ。
「実はね、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
それはクラスで仲の良い子の話ということで切り出した。名前を言っちゃうのは駄目だと思ったので言わずに話した。
「夏休み前にお付き合いを始めて、夏休みにいっぱい遊んで、それでね、えっちしちゃったんだって。興味があるとか、私にそういう人が出来たわけじゃないよ!ただ……早くないのかなって思ったの。クラスでよく話す子達は彼氏いる子が多くて、普通だよって言うんだけど、やっぱり私は早い気がして」
私が話し終えるとがっくんは腕を組んで悩み始めた。
私は貰った麦茶で喉を潤す。少し恥ずかしくて、顔が赤くなっているのを感じる。
私がそういうことに興味を持ったってがっくんに思われちゃったかな……。
がっくんはゆっくりと息を吸い、ゆっくりと話してくれた。
「……やっぱりそのカップル次第じゃないかな。まず話の前提として、こういうことは一概に早いとか遅いとかそういう話し方は危ないかなって俺は思ってる。例えばの話だけど、自分はえっちするのが遅くて、焦ってしまった。相手を正しく評価せずにしてしまい、その後浮気されたとか妊娠してしまったなんてことはあると思う」
うん、と私は理解できたことを首肯で示す。
「だから回答としては、俺たちの高校一年生の段階では早いと判断されるカップルもいるだろうし、ちょうど良いと判断されるカップルもいる。俺はそのカップルのことを知らないからなんとも言えないけど。真理愛については、もし焦っている気持ちがあるなら、今は冷静になってほしい」
がっくんは手元に向けていた視線を私に向けて優しい微笑みを浮かべてくれた。
「本当に自分を大切にしてくれる人か、本当に優しくしてくれる人か。……それをしっかりと見てほしいなって、その上でしっかり判断してほしいなって思うよ」
少し見ない間に、がっくんはとても大人になっていた。
見た目も、考え方も……。私が少し見ていない間に……。
カァっと顔が熱くなるのを感じた。
子供っぽい考え方への恥ずかしさ、がっくんみたいに成長できていないことへの恥ずかしさ、それとなんだかがっくんの顔を見られなかった……。
それはなんでか、答えは出せなかった。
「がっくんありがとう。うん、私もがっくんと同じ考えだと思う。相手がいるわけじゃないけど、焦らないできちんと考えるよ。……ごめんね、今日はもう帰るね」
それだけ言って、私はがっくんの家を出ていくことにした。
考えがまとまらない。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。
大切にしてくれる人……優しくしてくれる人……。
私にとってそれは……誰なのかな……。
学──
~9月3週目~
10月3週にある文化祭の出し物がメイド喫茶に決まった。
「任せとけ!」と言ったらクラス全員に「お前じゃない」と突っ込まれた。
クラスの心が1つになったのを俺は初めて見たぞ……。
夜、風呂から上がって夜風に当たっていたら隣の家の幼馴染と目が合った。幼馴染は自分の部屋の窓を開けて俺に話しかけてくる。
「がっくん、こんばんは!」
「あぁこんばんは」
久しぶりに──俺にはもう向けられないだろうなと思っていた──にへ~っとした顔の幼馴染を見た。
「がっくんのクラスは文化祭なにすることになった?」
凄く久しぶりに取り留めのない会話をした。
幼馴染のクラスは劇になって、ヒロイン役へ推されそうになったけど、セリフが覚えられないからと断った。裏方を希望し被服や小道具の担当になったと楽し気に教えてくれた。
聖奈ちゃんがね聖奈ちゃんがねと、仲良くなった友達のことをしきりに連呼していた。
一緒のクラスでなくても、幼馴染はしっかりやれていて本当に安心した。中学では俺が過保護に守りすぎたんだなと少し反省した。
「がっくん、文化祭楽しもうね!」
「あぁ、楽しもう」
すっかり火照った体が丁度冷まされた頃に俺達は解散した。




