表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娘のように、兄のように  作者: 長岡更紗
コリーン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/74

第18話 種馬のような話に

 コリーンはロレンツォの部屋で息を吐いた。ノルトの彼の実家の部屋である。

 夕食をとり、風呂に入った後のリラックスした時間だ。しかし彼はいそいそとしている。


「ねぇ、ロレンツォ」

「ん? なんだ?」


 聞いてもよいのだろうかと思いながらも、コリーンはその疑問を口にした。


「バート君ってさ、あんまりロレンツォと似てないね」

「ああ、まぁな。半分しか血が繋がってないんだ。バートとは」

「半分?」


 以前、ユーファミーアを生んだ後、セリアネに中々子どもができなかった、という話をロレンツォから聞いたことがある。だからもしかしたら、バートランドは養子なのかと思ったのだが。


「バートの父親は、俺やユーファの父親とは別の男だ。母さんが逆夜這いして作った子どもだからな」

「…………ええっ!?」


 たっぷり五秒は思考が止まってから驚いた。

 逆夜這い。確かにロレンツォから聞いたルールに、そんなものはあったが。


「い、いいの? そんなことして……浮気、だよね? 不逞、だよね? レイロッドさん、怒らなかったの?」

「怒るもなにも、二人が相談して決めたことみたいだからな。言っただろ? 母さんはユーファを生んだ後、次の子どもが中々できなくて苦しんでたんだ」

「でも、別の人の子どもなんて……」

「この村じゃよくあることだ。結婚しても子どもができない夫婦は、割と多いからな。逆夜這いはそういう人のためのルールさ」

「……なるほど。逆夜這いの場合、妊娠しても相手に責任を取らせてはならないっていうルールの意味がわかったよ。むしろ、責任を取ってもらっちゃ困るってことね」

「そういうこと。逆夜這いの場合、そういう事情が多いから、大抵の男は提供するよ」


 大抵の男は提供する……なんだか、種馬のような話だ。

 しかし元々過疎化対策で始まった風習だというし、そういうのも有りなのかもしれない。

 だが今、最も気になるのは、ロレンツォが誰かに提供したのではないかということだ。もしかしたらこの村に、ロレンツォの遺伝子を持つ子どもがいるかもしれない。そう思うと、聞かずにはいられなかった。


「あの……その、ロレンツォも、『提供』したの……?」

「残念ながら、逆夜這いをされた経験はないな。俺がこの村にいたのは十四までだったし、ほぼ毎日家にいなかったからな」


 つまりほぼ毎日夜這いに出ていたから、誰かが逆夜這いに来ても不在だったということだろう。ホッとすると同時に呆れる。だが逆に納得もした。ロレンツォがここまで性にオープンなのは、紛れもなくこの風習の中で育ったせいなのである、と。

 彼がコリーンに性教育をしてくれた時、恥ずかしがることもなく教えてくれたのも、一人慰めていたのを見られた時、して当然という態度をとっていたことも。

 ロレンツォにとっては、なんら恥ずべきことのない、至極自然な事象だったのだ。

 ある意味感心していると、ロレンツォが窓枠に足を掛けて外に出ようとしている。


「どこ行くの?」

「決めてない。用が済んだら戻ってくる」


 いうまでもなく、夜這いに行くのだろう。別に止めるつもりも咎めるつもりもない。トレインチェにいる時も同じだ。彼は家を空けることもあったし、今だってノース地区の家に来ない時は誰かの家に泊まっているのだろう。今さらである。


 ロレンツォが出ていってしばらくすると、窓を叩く音が聞こえた。まさかと思いつつも覗いてみると、朝会ったノートンという男がそこにいる。


「やあ、コリーン。いい夜だな。ノルトの風習はロレンツォから聞いたか?」

「聞いたよ」

「じゃ、俺とちょっとお話ししようよ」


 確か三分間は会話をしなきゃいけない決まりだ。仕方がないので頷いた。


「この村はどうだった?」

「いい村だと思うよ。人も、空気も。ちょっと馴れ馴れしい男の人が多いみたいだけど」

「あはは! そりゃー君みたいな女の子が村をうろちょろしていれば、みんな目の色を変えて話し掛けるよ。コリーンは、トレインチェ出身?」

「うん、まぁ、一応」


 トレインチェではノルト出身ということになっている。明らかな矛盾だが、バレることはないだろう。


「へぇー、都会っ子か! 年はいくつ?」

「二十六」

「あれ、俺より年上? 見えないなー」


 それはそうだ。本当はまだ二十歳なのだから。

 ノートンとはその後しばらく取りとめのない話をした。時間の三分がこようとしているのに、一向に焦る気配もそれらしい会話もしてこない。


「ねぇ、もうそろそろ三分経つよ」

「ああ、そうだな。俺、断られるだろ?」

「うん、そのつもりだけど」

「ははっ! そうだろうとは思ってたけど、はっきり言うなぁ~」

「なんで断られるってわかってて来たの?」


 コリーンは首を傾げる。ノートンの行動はコリーンには理解し難い。


「いいんだよ。ちょっと会話するのも楽しいんだ。できれば時間を忘れさせて、十分でも二十分でも会話を続けたかった」

「最終的に窓を閉められても?」

「うん、それでもいいんだ。次に繋げるから」

「私、もうノルトには来ないと思うよ」

「それならそれで仕方ないさ。でも、もしまた来ることがあったら寄らせてもらうよ」

「……じゃあ、もう閉めるね」

「あっさりだなぁ。もうちょっと話さない?」

「しつこくしちゃいけない決まりなんでしょ」

「残念。じゃあな、コリーン」

「ごめんね。おやすみ、ノートン」


 窓を閉めると、ノートンは笑顔で手を振ってどこかに行ってしまった。その後でコリーンは再び窓を開ける。閉めていては暑くて死んでしまいそうだ。

 ノートンが去ってから何分かの後、また男がやってきた。コリーンはその人物も三分で追い返す。そんなことが十回ほど続いた。

 コリーンが追い返しても、誰一人文句を言う者はいなかった。夜這いの風習があるといっても、成功率はそんなに高くないんだと、そのうちの一人が教えてくれた。こうして断られるのも慣れっこなのだろう。

 時刻は十二時近くになっていて、コリーンは窓を閉めて鍵を掛けた。眠くなってしまったのだ。

 開けたまま眠るのはなんだかはばかられた。誰かが入ってこないとも限らない。この村の人ならば大丈夫だろうとは思うが、気にしながらだとゆっくり眠れない。

 コリーンはベッドに入ると、目を瞑った。すぐに睡魔が訪れ、くうくうと寝息を立てる。

 しかしそれから半刻も経たずに、コリーンは目を覚ますこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ