第1話 奇跡の様な邂逅に
コリーンは、とある国の小さな村で生まれた。
その国は戦争をしていたが、コリーンの住む村ではあまり関係なく、穏やかに暮らしていた……はずだった。
コリーンが九歳になった時。
村がいきなり襲われた。
なぜ襲われたかなど、コリーンにはわからない。ただ、両親が不当に殺され、村が燃えるのを呆然と見ていた。
村にいた多くの大人は殺された。
国の役人が来て、遺体の処理に当たっている。
コリーンは両親の形見にと、腕輪をその腕から抜き取った。対になった腕輪は、結婚の証だ。細かな装飾のなされたそれは、かなり高価な物だと聞かされていた。
コリーンはそれを握りしめて、三日三晩泣いた。
涙も枯れた頃、目の前に男が現れた。
彼は何語かわからぬ言葉で、コリーンに話し掛けてくる。コリーンが首を傾げて見せると、男は自分を指差して「ロレンツォ」と言い、しきりにコリーンを指差してなにかを尋ねてくる。
「コリーン」
コリーンは、自分の名を言ってみた。ロレンツォと名乗る男は、何事か喋り、何やら黒い物体を差し出してきた。
コリーンがそれを受け取ると、男は食べる仕草をしてくる。食べろ、と促しているらしい。
(これ、毒なんだろうな)
コリーンはそう思った。男は敵か味方か分からない。敵ならば殺すために。味方ならば、両親を殺され生きる術もない少女に、死というプレゼントをしてくれようとしているのだと。
コリーンはそれをなんの躊躇もせず、口に入れた。
途端、涙が溢れそうになる。
その味は、とても、パラアンだった。
コリーンが人攫いに遭ったのは、その一年後のことだ。
子どもたちだけで畑仕事をし、政府からのわずかな支援金でなんとか生活を送っていた時。いきなり攫われ、そして言葉も通じぬ国に連れていかれた。
身に付けていた両親の形見の腕輪は抜き取られ、抵抗すると蹴られた。深い恨みが生まれ、絶対にこの顔を忘れてなるものかと脳に焼き付けた。
コリーンは暴力を受けながら、長い間、そうして馬車に揺られていた。
やがてどこかに着いた頃、コリーンは隙をついて、いかつい男二人組から逃げ出すことに成功した。しかしその先は絶望だった。形見の腕輪はなくなり、言葉も通じぬ場所で、誰も知る人のいない場所で。たった、一人。
いつ、さっきの二人組がコリーンを追ってくるかわからない。
コリーンは路地裏の目立たぬところで震えた。震えたまま、朝を迎えた。
そんなコリーンの目の前に現れたのが、ロレンツォだった。恐らく、ものすごい確率の奇跡的な邂逅だろう。
コリーンは一年前を思い出した。あの甘くて美味しい食べ物をくれた人なら、必ず助けてくれる。そう信じた。
「ロレンツォ、ロレンツォ、ロレンツォ!」
コリーンはその名を叫び続けた。知り合いだということを、強調するために。助けてほしいという言葉の代わりに。
思った通り、ロレンツォはコリーンを保護してくれた。食事を用意して、寝床を用意してくれた。
こうしてコリーンとロレンツォとの共同生活は始まったのだった。




