表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娘のように、兄のように  作者: 長岡更紗
ロレンツォ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/74

第19話 愉悦の後の代償は

 ケイティを風呂に入らせると、コリーンが部屋から出てきた。しかしその顔はやはり、いい表情ではなかった。


「コリーン、すまないな。服を貸してもらって」

「……なんでここに来たの?」

「なんで? いつでも来てくれと言ったのはお前だろう?」

「でも、あの人を連れてくるなんて……」

「コリーン、ケイティ嬢を知っているのか?」


 ロレンツォが問うと、コリーンは嘆息する。


「処女をもらってくださいって書いた紙を持って立ってた人でしょ」

「お前も見たのか」

「あの人に紙とペンを貸してあげたのは、私だから」

「そうだったのか」


 驚きの声を上げると、コリーンは訝る。


「ロレンツォ、まさか、本当にあの人の処女を……」

「ああ、そのつもりだが?」


 コリーンの顔が、一瞬強張る。蔑んでいるようにも……そして、傷付いているようにも見えた。


「……やめてよ」

「どうしてだ?」

「ここは私の家だから」

「少しだけ我慢してくれ。あんな必死な女性を放ってはおけないだろう? 可哀想じゃないか」


 コリーンは何か言いたくなるのをぐっと堪えているようだった。しかし最後は「好きにすれば」と自室に戻っていった。


 風呂から上がったケイティを、ロレンツォは部屋に誘った。彼女は牛乳臭い服ではなく、コリーンに借りた服を身に纏っている。

 コリーンよりも背の高いケイティは着丈が短くなっており、膝丈のワンピースのはずが膝上十センチまで上がってしまっていた。


「いいですね、お似合いですよ」

「こんな丈のスカート、学生以来よ。恥ずかしいわっ」

「眼福です。こちらにお座り下さい」

「あの、なるべく早く終わらせてくれると嬉しいんだけど……私、早くスティーグのところに行かなきゃいけないから……」


 もじもじとベッドから目を逸らすように懇願するケイティを、ロレンツォは包むように抱き締める。


「ロレンツォ様っ」

「嫌ですよ。折角だから俺も楽しみたい。いいでしょう?」

「でも、コリーンが隣に……」

「気にせず声を上げてくれて結構ですよ。聞かれていると思った方が、興奮しませんか?」


 そう、それがロレンツォの目的である。

 ロレンツォがこんな男であることは、コリーンは百も承知だろう。ただそれを実感させることで、自分への興味を失わせたかった。


「ロレン……」

「ファーストキスは奪いません。それはスティーグ殿にあげてください」

「きゃ、きゃああっ!!」


 ロレンツォの手が膝から順に上げていくと、ケイティに拒否の態勢を取られた。しかしロレンツォはクスクスと笑みを漏らす。楽しくて仕方がない。


「やはり処女はこうでなくては……」


 ケイティの嬌声が響く中、ロレンツォはケイティにそっと話し掛ける。


「ケイティ嬢、感じながらでいいので聞いてくれますか?」

「いやあ、あああああっ」

「処女はやはり、スティーグ殿に捧げるべきです」

「え……? あっああう」

「俺が処女をもらったことにしてあげますので、スティーグ殿に抱かれるといいでしょう」

「ああ、じゃあ、もう……っ、やめぇ……っ」

「嫌ですよ。俺はこれが目的ですから」


 ケイティの弱い部分を攻め続けながら、ロレンツォは目を瞑った。


(コリーンの香りがするな)


 ケイティの髪からはこの家の石鹸のいい香り。それに、ワンピースからわずかにコリーンの香りがした。


(コリーンはどんな声で啼くんだ? あいつは、どんな顔を見せる?)


 目を瞑っていると、手の中のケイティがコリーンに入れ替わっているように感じる。

 大事な大事な娘を犯しているような背徳感に襲われ、ロレンツォはいけないと思っていつつも己を欲情させてしまう。


(っく……何で、俺は……コリーンを想像して、こんな……っ)


 己の状態は、ケイティのせいであると確定させるために、ロレンツォはケイティを苛め続けた。

 ケイティはロレンツォの容赦のない攻めに、あられもない声を上げていた。


 やがてケイティの足腰が立たなくなると、ロレンツォはその行為を止めて、彼女をスティーグの家まで送った。

 そのスティーグに「ケイティの処女をもらった」と嘘を付くと、かわす間もなく思いっきり殴られた。再びノース地区の家に戻ってきた時には、すでに日付を跨いだ後だ。

 しかしドアノブを回そうとすると、鍵が掛かっていた。

 ロレンツォはポケットから鍵を出そうとして、それがないことに気付く。自分の部屋に置き忘れてしまったのだ。


「コリーン……開けてくれ。……寝てしまったかな。大声を出すわにもいかないし」


 イースト地区の家の鍵も、部屋の中だ。財布はあるので、どこかの宿に泊まろうかと考えていた時、そっと扉が開いた。


「起きてたか、コリーン」

「っな、どうしたの! その顔!」


 手加減なしでスティーグに殴られたあとを見て、コリーンは目を見広げた。


「大丈夫!? あの人、本当は美人局だったの?!」

「つつもたせって……お前は本当に色んな言葉を勉強してるな。おしどり夫婦ってわかるか?」

「仲睦まじい夫婦のことで、語源はおしどりが(つが)いで一緒に泳ぐ姿から生まれた言葉……って、いいから入って! 手当てしないと!」


 コリーンに手を引っ張られ、ロレンツォは中に入る。コリーンがテキパキと布を濡らしてロレンツォの頬に当ててくれた。


「っく、っつつつ」

「うわぁ……どうしよう、熱持ってるよ。部屋で寝てて。お風呂から桶を持ってくるから」


 ロレンツォは言われるがまま、自室のベッドに寝転んだ。先ほどまでケイティが喘いでいた場所だ。

 すぐにコリーンが替えの布と桶を持って現れる。しかし部屋に入った途端、彼女は顔をしかめた。嗅覚の鋭いコリーンは、女の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。


「いい、自分でできる」

「いいから、眠ってて! こんななっちゃって、もう……一晩冷やせば何とかなる、かな……」

「一晩、俺に付き添うつもりか? 明日も仕事だろう?」

「一晩くらい大丈夫。私、本当はまだ若いから」

「そうだな」


 っく、とロレンツォは笑いかけたが、痛みを感じて止めた。激痛だ。どんどん痛くなってくる。まさか、骨が折れてやしないだろうなと青ざめた。


「大丈夫、ロレンツォ……」

「……泣き言を言っていいか?」

「いいよ」

「痛い。めちゃくちゃ痛い。泣きそうだ」


 ロレンツォがそういうと、コリーンの方が泣きそうな顔をして布を取り替えてくれた。


「どうしよう、医者を……ううん、リゼットさんを呼んで来ようか?」

「ああ、だが、もうこんな時間だ。リゼットはもう寝てる。それにコリーンが行くと変に勘繰られそうだからな。いいよ、明日朝一で治してもらう」

「……そう」


 リゼットは治癒魔法が使える優秀な治癒師だ。彼女に頼めばこの怪我も治してくれるだろう。

 コリーンは桶に浸した布をギュッと絞り、再び交換してくれた。冷たさが心地良く、ほんの少しだけ痛みを緩和してくれる。


「すまんな、コリーン」

「いいよ。私が熱を出した時、ロレンツォがこうして看病してくれたことがあったでしょ。お返しできて嬉しいよ」

「あれはまだお前が幼かった頃だろう。大きくなってからは、してやってないな」

「風邪なんて、ここ四、五年ひいてないよ。ロレンツォは風邪ひいてても仕事行っちゃうしさ。一度、こうやって看病してみたかったんだ」


 コリーンに微笑まれ、何なぜだかロレンツォは胸が押さえつけられたようになった。


「じゃあ、看病してもらうか……」

「うん、そうして」

「ありがとう、コリーン……」

「おやすみ、ロレンツォ」


 コリーンに促されてロレンツォは目を瞑った。

 頬が熱を持ち、左目は開けようとしても開からない状態になっている。ズキズキと痛む顔面は、意識を朦朧とさせた。


(コリーン。

 どうして。

 どうして、あの時、俺はコリーンを。

 お前で欲情するなんて、どうかしてる。

 ユーファで欲情するようなもんだ。

 コリーンは、大事な……家族なのに)


 ロレンツォの意識は、より深いところに沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ