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娘のように、兄のように  作者: 長岡更紗
ロレンツォ編

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第12話 恋するコリーンの眼差しは

 コリーンが二十二歳の誕生日を迎えた。実年齢は現在十六歳だ。

 とりあえずの目標だったこの年齢に、ロレンツォは感慨深いものを覚える。

 体も成長したので、二十二歳と言って言い張れぬことはないだろう。どこか学校に通いたいと言い出しても、書類に書かれた生年月日と見た目のギャップに怪しまれることもなくなる。

 ロレンツォは、コリーンのために上等なワンピースを一枚購入した。コリーンは、自分で服をほとんど買ったことがない。ユーファミーアの服ばかりを着ているのだ。おしゃれに興味がないわけではなく、街を行く女の人の姿を、いつも憧れの眼差しで見ているのだが。


「コリーン、二十二歳、おめでとう」

「ありがとう、ロレンツォ」


 買ったばかりの服を渡すと、コリーンは目を丸めていた。


「ロレンツォ、これ、すごくいいものじゃない?」

「そういうのが一着あってもいいだろう」

「こんないいもの、普段に着られないよ」

「大切なデートとか、恋人の両親に会うとか、そんな時には必要だろう?」

「そんな人、いないってば」

「そうなった時に慌てないよう、備えとして持っておけばいい」


 そう言うとコリーンは眉を寄せていた。しかし鏡にワンピースを当てている姿は、すでに笑顔になっている。


「ありがとう! 大事にするね」

「ああ、そうしてくれ」


 嬉しそうに、丁寧にワンピースを畳むコリーンを見る。

 彼女に小遣いをあげ始めてから、テキストやノート以外でお金を使っているところをほとんど見たことがない。たまにスカートを買ったり、チョコレートを買ったりしているくらいだ。


「コリーン。別に答えたくなければいいんだが、小遣いは何に使っているんだ?」

「え? 勉強するために使ってるけど。チョコとか、服も買ったことあるよ」

「毎月、全額使うほどじゃないんじゃないか?」

「うん、欲しいものがあって、貯めてるから」


 欲しい物。そんな物があるなんて知らなかった。欲しい物を自分で買えるようにと小遣いを与えたのだが、それでは買えないくらい高価なものなのだろうか。


「その欲しい物っていくらなんだ?」

「さぁ……多分、ひとつ十万ジェイアはするんじゃないかな。対で二十万」

「そんなにか! 一体、何が欲しいんだ?」

「腕輪」


 腕輪? とロレンツォは首を捻らせかけて、ふと思い出す。初めて出会ったコリーンは、確か二つの腕輪を握り締めていた。


「両親の形見のか?」

「うん。あれは、私が生まれたところでは、ここでいう結婚指輪と同じ。装飾も大体覚えてるから、似た物を作ってもらおうと思って」

「その元の腕輪はどこにあるんだ? 国に置いてきたのか?」

「この国に来る時、取り上げられた。多分、売られたと思う」

「……そうか」


 人身売買をするような奴らだ。そのまま置いておくことはしないだろう。


「残念、だったな」

「うん……でも仕方ないから」


 未だ人身売買は闇で取り引きされている。しかし犯行グループの足取りは中々掴めない。隣国との戦闘が激化しつつある昨今、そちらの方に人員を割けないのだ。


「そうだ、私もプレゼントあるよ。ロレンツォに!」

「なに? 俺は別に、誕生日でもなんでも無いぞ」

「準貴族になれるって聞いたよ。カルミナーティだって?」


 ロレンツォは顔をしかめた。騎士団で活躍し、隊長にも就任したロレンツォは、確かにアーダルベルトからそういう話はもらっている。しかし享受はまだ先の話で、新聞にも載っていないはずだ。


「コリーン、誰に聞いた?」

「アクセル」

「アクセルと知り合いだったのか」


 いつの間にかコリーンの交友関係も広がっている。しかしアクセルと知り合っていたとは、驚きだ。


「うん。図書館で勉強してる時に、アクセルが図書の寄贈に来てて、それで知り合った。それより、はい! プレゼント!」


 コリーンは小さな箱を渡してくれた。中を取り出すと、さらに小さな小瓶が入っている。


「香水か」

「名付けて、コリーンセレクトロレンツォヴァージョン」

「ってことは、アクセルヴァージョンもありそうだな」

「よくわかったね」

「アクセルが、好きなのか?」


 そう聞くと、コリーンは一瞬でカッと顔を赤らめた。


「好きなんだな」


 少々、複雑な気持ちだ。微笑ましく、嬉しいと同時に、若干の寂しさがロレンツォを襲う。


「ち、違うよ。ただ、ちょっと仲がいいだけ」

「ちょっと、ね」

「もう、違うんだってば!」


 ニヤニヤするロレンツォに、コリーンはポカポカとロレンツォの胸を打ってくる。


「わかったわかった。これ、ありがとうな。使わせてもらうよ」

「今度リゼットさんとのデートにでも付けて行ってよ。名前を享受した時にお祝いするでしょ?」


 その香水、割と自信作と笑うコリーンに、ロレンツォは自嘲した。


「リゼットとは、先日別れた」

「……え?」


 コリーンの顔色が変わる。


「私のせい!? 私、いつでも別れるって、言ったのに! 私、リゼットさんに説明して……!!」

「落ち着け、コリーン。お前のせいなんかじゃない。本当だ」

「でも……」

「リゼットは、ある恋人の仲を裂かなきゃいけなくなってな。それで、自分だけが幸せでなんていられないからと、別れを切り出されたんだ。だからコリーンは関係ない。安心しろ」


 コリーンはやはり眉を垂らしたまま、俯く。


「……残念、だったね」

「……まあな」


 その後、しばらく沈黙が続いた。リゼットのことを考えるとまだ胸が痛いが、コリーンの前でそれを見せるべきじゃないだろう。


「カルミナーティ、か」


 ロレンツォは、享受する名を声に出す。コリーンも沈黙が嫌だったようで、それに食いついてきた。


「ロレンツォ・カルミナーティになるんでしょ?」

「ああ。お前もコリーン・カルミナーティになるな。俺の家族もカルミナーティ性を名乗れる」

「すごい大出世! ノルト村の家族も喜ぶね」

「ノルトじゃあまり準貴族の恩恵がないけどな。うちは昔ながらの農家だから」

「それでも誇らしいって、喜んでくれるよ。きっと」

「そうだな。また少し、生活が楽になるぞ。小遣い、上げてやろうか」

「ううん。大丈夫、ありがとう」

「遠慮するな。ユーファの服じゃ、デートに行くのも恥ずかしいだろう。相手がアクセルじゃ、余計な」

「デ、デートじゃないってば」

「わかったから、今月分受け取れ」

「いらない! いつもの金額でいい!!」


 コリーンは絶対に超過分を受け取らなかった。意固地な奴である。


「まったく、後になって欲しいって言ってもやらないからな」

「いいもん」


 アクセルはこのファレンテイン騎士貴族共和国でも、屈指の金持ち貴族だ。それなりの身なりをさせてあげたいと思ったが、コリーンは気にしていないようである。


(コリーンは、アクセルの奴とうまくいけばいいな)


 ロレンツォは、恋するコリーンの眼差しを見て、心からそう思っていた。

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ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

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戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
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ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

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