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戦国転生したら秀長の息子でした ~豊臣宰相の子として、戦国日本を国家から作り直すまで~  作者: 丸三(まるぞう)
動きだす歯車

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第27話 父の陣に届く支度

天正9年(1581年)6月中旬 近江・長浜城

6月中旬、伊勢屋宗右衛門は再び屋敷を訪れた。


木箱を2つ、若い手代に担がせている。


「お約束の品にございます」

表の間に運ばせ、宗右衛門自ら蓋を開けた。


まず現れたのは、木綿の足袋だった。

縫い目は細かく、底は二重。

指の間には細い補強糸が通され、踵から足首部分の布はしっかりと厚い。


「歩き潰れる場所は、ここです」

宗右衛門が指で示す。

「縫子に何度も縫い直させました」


次は筒状の袋。

口は紐で縛る形で、布地はやや黒ずんでいる。

「油を引いてございます。荏胡麻油です。匂いも弱く、火薬を傷めませぬ」


さらに小ぶりの弾薬袋。

腰に結べるよう、紐が最初から縫い付けられていた。


私は手に取った。

軽い。


革袋より、驚くほど軽い。

そのとき、廊下の外から足音が重なった。


小堀正次。

羽田正親。

本多俊政。

父の政務と軍務を預かる三人だ。


母が声を掛けたのだろう、自然な流れで入ってきた。


「これが若殿がつくらせたという品ですか」

本多が足袋を取り上げ、裏返して眺める。

「悪くありません」

「軽すぎて心配になるほどです」


小堀は無言で縫い目を確かめている。

羽田は鉄砲袋を肩に掛け、実際に歩いてみた。


「兵は、荷の重さで足を削られます」

「半刻の差が、生死を分けることもある」

本多が言った。


「濡れては意味がない」

桶に水を張らせ、鉄砲袋を沈める。

引き上げて振る。

中は、ほとんど湿っていなかった。

「ほう……皮よりよほど扱いやすい」

本多が低く唸る。


宗右衛門は背筋を伸ばした。

「縫子三人で十日かかりました」


私は静かに言った。

「兵の足と火器を守ります」

「刀や槍ほど目立たないが、兵の命に直結します」


小堀が私を見て言う。

「若殿、これらを秀長様へ?」


「はい」

私が短く言って頷くと、小堀は一拍置いて力強く答えた。

「よろしいでしょう」

「添え状は私が書きます」


「恐れ入ります」

宗右衛門は深く頭を下げた。


その日のうちに、小堀の裏書を添え、書状と試作品は桐箱に納められた。


送り先は但馬(北兵庫)と因幡(鳥取)の国境。

父、羽柴秀長の陣所。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鳥取攻略の準備は、すでに佳境に入っていた。


陣所では、昼夜を分かたず兵糧の積み替えが続き、道普請の報告と城取りの見積が絶え間なく運び込まれる。

秀長は陣幕の中で地図を広げ、側近たちと低い声で言葉を交わしていた。


「鳥取城の背後は山が深い」

「正攻なら、三千は削れる」


軍議の空気は重い。

勝てる戦であるほど、損の計算は細かくなる。


「殿」

使者が入った。

「長浜より、若様の書状にございます」


秀長は顔を上げた。

「竹若から?」


わずかに眉が動く。

封を切り、書状を読む。

その末尾にある小堀の名を見て、小さく息をついた。


桐箱を開ける。

 足袋

 鉄砲袋

 弾薬袋

それぞれ数個ずつ。


秀長は黙って一つずつ手に取った。

重さを量り、縫い目を撫で、布を引く。


「軽い」

自ら足袋を履き、陣幕の中を歩いた。

 一歩、二歩


膝を折り、腰を落とす。

「……悪くない」


鉄砲袋を兵に持たせ、水桶を持ってこさせる。

濡らし、振り、中を確かめる。

「なるほどな」


秀長は地図に視線を戻した。


 鳥取城

 背後に連なる山

 補給線

 長期戦

 兵の足

 火薬


すべてが頭の中で結びつく。

「戦は兵の足と火で決まる」


軍議のため秀長の陣所を訪れていた桑山重晴が、黙って頷く。


「重晴の評価を聞かせてほしい」

秀長がそう言って、桑山に試作品を渡す。


秀長がしたのと同じように、袋の感触、縫合を確かめ、足袋を履いて歩いてから、桑山が感想を述べた。

「なかなかの出来かと」

「軽く、丈夫で、水にも強い」

「足袋は歩きやすく、怪我の多い箇所を守っている」

「これは使えると思います」


それを聞いた秀長が、即座に側近に伝えた。

「この足袋と袋、試験的に使う」

「鉄砲組の経験の豊富な兵に使わせよ」

「これを使う時と使わぬ時を分け、その差を評価して上げさせよ」

「それと、気になる点があれば遠慮なく報告するように伝えよ」


桑山が満面の笑みを浮かべながら、

「にしても、今度は若殿からですか」

「殿のご家族は、殿のことが心配で仕方がないようですな」

「奥方様からは丸薬、若殿からは戦の試作品」

と言った後、我慢できなかったのか小さく笑った。


秀長は家族から自分に向けられる愛情を確か感じながら、嬉しい気持ちを悟られぬよう平静を装い答えた。

「竹若が、いつも私のことを心配する。身体を気をつけろとうるさい」

「丸薬のことも、おそらくあやつの発案であろう」


「それほど大事に思われている証拠ではございませんか」

桑山はそう言って、秀長家族の温かい絆に素直に感心をした。



それから数日後、報告が上がってきた。

それは、秀長と桑山重晴が肌身で感じた評価と同じだった。


それを聞いた秀長は側近を呼び、

「河内で作らせよ」

「買い付けは羽柴家の名で行う」

と、短く命令した。


そして、改めて竹若からの書状を開きながら、低く笑った。

「……あやつ」

「生産と買付の段取りまで整えて、小堀殿に添え書きをさせて送ってくるとは」

秀長はしばし沈黙した。


「兵を使い捨てにせぬ軍は、強い」

それが誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

近江・長浜城


それから十日後、但馬から使者が戻ってきた。


書状は短かったが、はっきりとした筆致だった。

 足袋ならびに鉄砲袋・弾薬袋、試験的に採用する。

 生産は河内。

 羽柴家の軍需品とする。

 伊勢屋宗右衛門を御用商人と認める。


私は、しばらく文を見つめてから、静かに息を吐いた。

その日のうちに宗右衛門を呼んだ。


屋敷の表の間。

小堀正次、羽田正親、本多俊政も同席する。


宗右衛門は文の内容を聞くと、固まった。

「……御用、でございますか」

 声が震えている。


「はい」

私は静かに答えた。

そして、その続きを小堀が淡々と補足する。

「羽柴家直轄の軍需品です」

「今後も、量も質も落とせません」


宗右衛門は深く、深く頭を下げた。

畳に額が触れるほどだった。

「身に余るお取り立て……」


私は言った。

「試作が認められたのです」

「これからはそれを商いにできる」


宗右衛門は顔を上げた。

その目は、以前の商人のものではなかった。

賭場に立つ者の目だった。

「河内に工房を三つ設けます」

「縫子は二十人」

「木綿の買い付けは前金で抑えます」

「油は堺から」

「半年で、千足」


本多が眉を上げる。

「ほう、強気だな」


「羽柴様が使われる品。必ず、数が出ます」

宗右衛門は即答した。


「輸送は当家で手配します」

「代官筋への口利きも」

羽田が言った。


宗右衛門は、再び深く頭を下げた。

そして、私を見た。

「若様」

「……お願いがございます」


「何でしょう」


「以前お話しになった、噂の件」

情報網のことだ。

「あれを、急ぎ整えさせていただきます」

宗右衛門は真っ直ぐに言った。

「羽柴様の御用商人となれば、否応なく風当たりも強くなります。ならば、先に、風向きを知りたいと思います」


私は小さく頷いた。

宗右衛門が続けて言う。

「店ごとに帳面を分けます。兵の動き、米と塩の値、城普請」

「月に一度、必ずまとめるようにいたします。急ぎの話は、飛脚で」

「商人は、若様の盾にはなれません。ですが、殿の目と耳にはなれます」


私は答えた。

「それで十分です」


商人は、利益で動く。

だが、大きな利益には、リスクを背負う覚悟もいる。

宗右衛門は、いや、伊勢屋はそれを選んだ。

これほどの話、独断ではできない。

あらかじめ父親と話をもっただろう。  


「……マルには感謝しかございません」

「縁を連れてきていただきました」

宗右衛門はそう言って再び頭を下げた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本作は初めての投稿作品のため、誤字脱字や表現の拙さ、設定の不整合などがあるかもしれません。

日々推敲しながら加筆修正をしていく予定です。


ブックマーク・評価・感想をいただけますと、

今後の執筆の大きな励みになります。


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― 新着の感想 ―
まるちゃん!お手柄w( *´艸`)♪
あまり知られていませんが秀長とタッグを組む千利休も堺の大商人です。 将来主人公と伊勢屋宗右衛門さんがタッグを組むことがあるかもしれないですね。
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