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会いたかった  作者: じいちゃんっ子


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第4話 実母の戯言

ママはDrug addiction!

 3月を迎え、来月は大学の入学式。


 お父さんとの再会を果たしてから、今までの空白時間を埋めるかのように、毎日連絡を取り合った。


 仕事が忙しいはずなのに、お父さんは私がメールを送ると必ず返事をくれた。


 少しでも時間が出来たら、会いに来てくれたし、高校の卒業式にも来てくれた。


 父親の出席は、祖父母とは違う幸せを私にもたらしてくれた。

 お父さんは今までの経緯を直接おじいちゃん達に説明した。


 私にずっと会いたかった事。


 母に嘘を吹き込まれ、父を恨んでいると思っていた事。


 それを言い訳にして、私から逃げ続けていた事を…


『本当にすみませんでした』

 お父さんはおじいちゃんとおばあちゃんに頭を下げた。


『政志君…私達の方こそすまなかった』

 おじいちゃん達も、お父さんに頭を下げた。

 離婚の真実を言えば、私が更に傷つくと恐れていたが、それは娘の不始末を隠す、自分達の保身でしかなかったと謝罪した。


『美愛の事、本当にありがとうございました』

 お父さんの言葉に、おじいちゃん達は救われたそうだ。


 おじいちゃん達は、私の養育費返還請求にも全面協力を約束してくれた。

 母は一度も私の養育費をおじいちゃんに渡さなかったそうだ。

 それどころか、立て替えた離婚の慰謝料さえ踏み倒していた。


 あまりに自分勝手な母の生き方に、怒りを通り越して呆れるしかなかった。


 お父さんは大学の入学式にも来てくれると約束してくれた。

 祐介君の事を考えたら、ちょっと気が引けたけど、楽しみにしてますと、父に話す彼の姿に私も嬉しくなった。


 いつも祐介君は、私のお父さんが好きだと言う。

 お父さんも、祐介君は自分の息子のように思えると。

 再婚したお父さんには娘さんが二人いる。


『やっと美愛に会えたら、息子まで出来たよ』

 食事会でお父さんが言った言葉にみんな笑った。


 私と祐介君、お父さんと新しい家族みんな一緒になって…


「それじゃ行くか」


「うん」


 鍵が閉まっているか確認して部屋を出る。

 祐介君と二人で暮らすマンション。

 早いもので、同棲生活を始めて一ヶ月になる。


 山の手線の駅から電車に乗り、目的の弁護士事務所へ向かう。

 まだまだ東京の地理に疎い私達は、複雑な電車の路線が分からない。

 なにせ地元は私鉄のローカル線が一つしか走ってなかったし。


 約束の時間に到着した私達。

 大きなオフィスビルの5階、楠本弁護士事務所と書かれた扉を開けた。


「失礼します。

 石井常務のご家族がお着きです」


「入って貰ってくれ」


 室内からの返事に事務員さんが会議室のドアを開く。

 部屋ではお父さんと、もう1人の男性、楠本弁護士さんが話し合いを続けていた。


「お父さん、お疲れ様でした。

 楠本先生、いつもありがとうございます」


 私は祐介君と頭を下げる。

 今日は私の養育費返還請求裁判の第3回口頭弁論が行われ、その経過を聞くために来た。


「お父さん、どうだった?」


「まあ…今回もめちゃくちゃだったよ」


 疲れきった表情のお父さん。

 二度と会いたくなかっただろう母と何回も対峙する気苦労は大変だと痛い程分かった。


「ですが石井さん、向こうも弁護士を立てられたので、まだマシですよ」


「そうですが…」


 意外だったのは、母が弁護士を立てた事。

 負けると分かっている裁判を受ける弁護士に驚いたが、勝敗に関係なく、引き受ける弁護士も中には居るそうだ。


「着手金目当てですか?」


「言いにくい事を言うね」


 祐介君の言葉に楠本先生は苦笑いを浮かべた。


「まあ弁護士も色々あるんです。

 それより、次でおそらく終わるでしょう。

 こんな答弁書を出す時点で終わってますから」


「そうですね」


 テーブルに置かれた書類に二人は笑う。

 今回の答弁書内容を見てないが、きっと荒唐無稽な事が書かれているに違いない。


 前回までの答弁書は酷かった。


[父によって経済的に追い詰められた末の事で、私は悪くない]


[こうなったのは離婚の原因を作った元夫にあり、私は被害者。

 むしろ慰謝料を払って欲しい]


[娘に会えば分かってくれる、美愛は私の味方だ…]


 裁判に出廷しなくて本当に良かった。

 こんな事を言う母の顔なんか見たくない、戯言を聞くのはごめんだ。


「向こうの弁護士も今日で降りるるでしょう、今回も散々罵倒されてましたから」


「おそらく」


 味方の弁護士を法廷で罵る神経が理解出来ない。

 母の現状を知らないが、かなり荒んだ生活を送っているのか。

 請求が認められて、給料を差し押さても、黙って従うなんて思えない。


「しっかり報いは受けて貰うよ」


 お父さんが呟く。

 それでも母は反省しないだろう。

 正直お金はどうでも良い、だけどおじいちゃん達を苦しめたのは許せない。


「ん?」


 扉の向こうから叫び声が聞こえる、何が起きたの?


「先生…大変です」


 事務員さんが顔を出す。

 なんだか怯えているようだけど。


「誰が来たのかね?」


「その…河合史佳と名乗る女性が、石井常務を出せと」


「は?」


「まさか?」


 私達は顔を見合わせる。

 河合史佳って、まさか母がここに来たの?


「直ぐ警察に連絡を。

 皆さん安心して下さい、こういった事も稀にありますから」


 楠本弁護士は取り乱す事なく事務員に指示を出す。

 どこまで母は恥知らずなのか。


「それが、…警察を呼ぶならここで死んでやると」


「……」


 もう言葉も出ない。

 愚かな人間と分かっていたが、第三者を巻き込む程腐っていたなんて。


「どこだ卑怯者!

 金を返せ私の金だ!!」


 開いた扉の向こうから聞こえる叫び声はもしかして…


「…母さんの声」


 間違いない、少し(しゃが)れているが母の声だ。


「早く扉を閉めなさい!」


「は…はい」


 事務員さんが扉を閉めようとした時、1人の女が室内に飛び込んで来た。


「そこに居たのか!」


 それは12年振りに見る母の変わり果てた姿だった。

 ボロボロに崩れた化粧、派手な洋服と所々破れた鞄。

 赤茶色に染めた髪は頭頂部が染まっておらず、白髪が見え昔の面影は殆ど残っていなかった。


「…あれが母さんなの?」


 あまりに悲惨な姿に言葉が出ない。

 どんな生活を送っていたら、ここまで悲惨になってしまうの?

 まだ45歳なのに、あれじゃ70過ぎの老婆にしか見えない。


「…ひょっとして美愛なの?」


 母は私に気付いた。

 恐怖に身体が強張り、動けない。


「会いたかったわ…養育費はちゃんと貴女の為に使っていたでしょ?

 アンタがそう証言してくれたら、お金が戻るんだから。

 本当にコイツ等、訳の分からない事ばかり言って、お母さんを追い詰めるのよ」


「何を…言ってるの」


「そういえば確か高校も卒業でしょ?

 大学に行くなら、コイツにお金を請求しなくっちゃね。

 それしか取り柄のない男だから」


 私の言葉を全く聞いてない、完全に壊れている。


「おばさん」


「誰よアンタ?」


 祐介君が私の前に回り込む。

 いくら祐介君が柔道の黒帯を持っているとしても駄目よ、これは母じゃない、完全な狂人だ。


「美愛の前から消えろ」


「は?」


 祐介君の姿が消えた次の瞬間、母は床に這いつくばる。

 彼は足払いをしたのだ。


「おじさん」


 祐介君が床に落ちていた鞄をお父さんの方に蹴る。

 少し開いた鞄の中から覗く物はまさか…


「包丁…」


「はい、取り出そうとしてましたから」


「離せ畜生!

 痛い!離しやがれ!」


 どこまで祐介君は冷静なんだろう。

 母は足をバタつかせ、血走った目で唾を飛ばす。

 でも腕の関節を固められ、泣き喚くしか出来ない。


「…母さん」


「お願い!早くこのバカに離すよう言って!!」


 バカか…

 祐介君にそんな事言うなんてね。


「あなたが、どんな人生を歩んで来たか知らない。

 でも全部自業自得、もうおしまいだよ」


「み…美愛」


「二度と姿を見せないでね」


「あ…アァァ!」


 しっかり目を見てお別れすると、白目を剥いた母の腕がダラリと落ちた。


 暫くすると数人の警察官が部屋に入って来る。

 意識の戻らない母だった生き物は、後から来た救急隊員の手によって運ばれて行った。


「…あれは薬物でしょう」


「まさか」


「あの状態は…間違いありません」


 実況見分を見守っていた楠本弁護士の言葉、お父さんも声を失っている。

 ここまで人間は堕ちる事が出来るんだ。

 それが私の母だったなんて…


「美愛は、おじさんの子供だから大丈夫だよ」


 あんな女の血が入っている現実。絶望する私の肩に祐介君はそっと手を置いた。


「俺は美愛が歩んで来た今まで全部を、一緒に見てきたんだから」


「うん…」


 祐介君の言葉に涙が止まらなかった。


次ラスト!

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― 新着の感想 ―
マァ難と言いますか、いつまでも汚華々場嶽(たけ)に背ッ徳ような汚形ですからと。(•▽•;)(そして檻の中煮でも背ッ徳と宜しいのかなと。)
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