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第19話 #マキ




 2学期が始まり学校へ行くと、朝から須藤君が一人だけ機嫌良さそうにはしゃいでいた。


 そして、登校してきた私に気づくと、みんなの前で肩を抱き寄せて「俺達付き合うことになったから!」と言い出した。


 私の恋人はハル君ただ一人だけだ。

 どんなに脅されてもコレだけは絶対に守りたかった。


「違う!付き合ってなんかいないもん!」と大声で否定すると、須藤君に腕を掴まれ引っ張って廊下へ連れていかれた。


 教室から少し離れた所まで連れていかれると、低い声で「今更付き合ってないとか通用すると思ってんのか?」と脅された。



 直ぐにグループの友達の女の子3人が追いかけてきてくれて、須藤君に「ちょっと!マキちゃん嫌がってるじゃん!何してんの!」と怒ってくれた。


「知らねーよ!コイツが我儘ばっか言うから、お灸据えてただけだし」


「はぁ?あんた何言ってんの?」


「うるせー、文句あるならマキに聞けよ」


 須藤君はそう言って一人で教室に戻って行った。



 3人は私のことを凄く心配してくれたけど、夏休みの間に須藤君にされたことは何一つ話すことが出来なかった。



 学校に居る間は、3人が常に私の傍に居てくれて須藤君が近寄って来れない様に守ってくれていた。


 でも、放課後になるとスマホに「〇〇のコンビニで待ってろよ」とメッセージが送られてきた。






 夏休みが終わっても、私の地獄は終わらなかった。

 放課後になると、毎日家まで連れていかれ家にお母さんが居ても構わずに相手をさせられた。


 キスや口での行為も当たり前の様に要求してきた。

 そして、コンドーム代をケチり出して、「外に出すから」と言って避妊もしてくれなくなった。







 ハル君との一緒の登校だけは続けていたけど、罪悪感で目を合わせることが出来なくて、ハル君もそんな私の様子に気を使ってくれたのか、お互い言葉をほとんど交わさない形だけの二人での登校になっていた。


 そして、2学期に入っての最初の定休日の日の朝。


 ハル君が「今日どうする?」と聞いてくれたけど、「ごめん、今日用事あるから遊べない」と断ることしか出来なかった。


 ハル君は私の方に顔を向けずに「わかった」とだけ返事をして、行ってしまった。




 この日を最後に、定休日にハル君から声を掛けられることは無くなった。


 そして、この頃からハル君の様子がドンドン変わっていった。


「体調不良で明日学校に行けないから、一人で登校して」とメッセージが来て学校を休んだり、待ち合わせで会えた時でも今まで最低限言ってくれていた「おはよ」の一言も言ってくれなくなった。




 そんな日々が続き10月に入る頃には、ハル君は見て居られないほど憔悴していた。


 もうこの頃には(私のことがバレているんじゃないか)という恐怖に私自身も押しつぶされそうだった。


 お互いボロボロになっているのに、ろくに言葉を交わさずに朝だけ一緒に登校する日々。



 私もハル君ももう限界だと思った私は、その日の朝、別れ際に「話があるから、学校から帰ったら公園に来てほしい」と声を掛けた。


 ハル君は「わかった」とだけ返事をして行ってしまった。



 この日の放課後は、須藤君の呼び出しを無視して近所の公園でハル君を待った。

 待っている間、子供のころ二人で遊んだことや、中学の卒業式の後にキスしたことを思い出していた。 泣きそうになったけど、泣いてしまったら話が出来なくなると思い、歯を食いしばって我慢した。



 公園に来てくれたハル君は、やっぱり顔色が悪くて、辛そうだった。


 私が別れて欲しいことを伝えると、取り乱したりしないで、落ち着いた口調で理由を聞いてくれた。


 でも本当の事なんて言えないから、誤魔化すしかなかった。

 最後まで嘘をつかないといけない自分が情けなくて悔しくて、結局泣いてしまった。


 謝ることしかしない私に対して、ハル君はストレスの限界を迎えたのか、その場で嘔吐し始めた。


 無意識に駆け寄って背中に手を当てると、その手を払いのけられた。




 ハル君に拒絶された私は、自分から別れ話をしたクセにショックでその場から動くことが出来なくて、公園から黙って出て行くハル君の背中を見送る事しか出来なかった。






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