見ている者 明度の断片
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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彼女の後姿を眺める。
揺れる長い黒髪は、光を受け反射している。
そこから覗く、雪のように白い肌。血の様に赤い瞳は、一体何処を向いているのだろう。
そう思いながら、僕は彼女に気付かれないよう、そっとついていく。
彼女との出会いは、入学してすぐ。
彼女から、話しかけて来てくれた。
ただ、漠然と歩く僕を、彼女が呼んで、必要としてくれたのだ。
初めの出会いこそ、交わした言葉は数少ないものだったけれど、
何となく、彼女が忘れられなかった僕はそれから、彼女を目で追うようになった。
彼女を見て、彼女の心根が優しいことを知った。
どこか自己犠牲的なところもあるけれど、自分を顧みず、
人に手を差し伸べる彼女はとても素敵だ。
徐々に僕は、ただ偶然見かけて、ついていくのではなく、
自分から彼女を見に行くことが増えた。
彼女の教室の近くまで行くこともあるし、屋敷の近くに行くことも増えた。
この間の休日は、彼女の屋敷まで、彼女の姿を見に行った。
見えたのは、彼女の姿じゃなくて、別の男の姿だったけれど。
彼女と同じ黒髪だったから、もしかしたら親戚か、お兄さんかもしれない。
彼は、門番から男を引き渡されていた。
僕はまだ、彼女について知らないことが多すぎる。
朝早く来て、黒板が汚いと綺麗に拭き直すことを知っている。
テストがあると人が来るまで教室で予習することを知っている。
授業の中でも国語が好きなことを知っている。
学年二位だってことを知っている。
休み時間は大抵別棟にいることを知っている。
その間、本を読むことを知っている。
その本がどんな内容なのかも、今どこを読んでいるのかも知っている。
お昼、ランチボックスを嬉しそうに抱えて教室から出て行くことを知っている。
それを大事そうに、嬉しそうに食べることを知っている。
教室に戻る時、ちょっと憂鬱そうな顔をすることを知っている。
帰る時、一度別棟で時間を潰すことを知っている。
けれど、それだけだ。
もっと知りたい。もっともっと知りたい。
もっともっと知れば、あなたは僕のことを好きになってくれるのかもしれない。
僕を愛してくれるかもしれない。
そして、気づいてくれるかもしれない。
君が、気にしている。
レイド・ノクターや、エリク・ハイムよりも、僕はずっとずっと、君を見ていることに。
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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